研究課題/領域番号 |
24654082
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
赤木 和人 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 准教授 (50313119)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 水素結合ネットワーク / 第一原理計算 / 水素イオン / 水酸化物イオン / 固液界面 / 水の構造化 |
研究概要 |
本年度は以下の項目に取り組んだ。 (1) 水素イオン・水酸化物イオンを含むバルク水溶液からの水素結合ネットワークの情報の抽出:約0.5 mol/l~2.0 mol/lの水溶液について100psを超える第一原理MD計算を行い、水素イオン(あるいは水酸化物イオン)のみを含む水溶液と、カウンターイオンを持つHCl水溶液(あるいはNaOH水溶液)とを比較した。特にカウンターイオンを含まない系での水の構造化は著しく、水素イオンや水酸化物イオンは自己束縛状態を取りやすいこと、そのダイナミクスは周囲に水素結合の発達したドメイン構造の生成と消滅を伴う様子が分かって来た。また、カウンターイオンは自己束縛状態を緩和する働きを示していた。 (2) 水素結合ネットワークの特徴と「欠陥(水素イオン・水酸化物イオン)」の動き方や分布との関係の解明:モデル壁に接する固液界面系を用意してバルク系と各種の比較を行った。4員環や5員環といった少数員環の水素結合構造が多く現れる疎水壁近傍において、塩化物イオンなどは界面近傍を好むのに対して水酸化物イオンは界面近傍を避けてバルク溶液側に偏在する傾向を示す等、ネットワーク構造と化学ポテンシャルの関係を解析するための典型例がいくつか見つかった。 (3) 水素結合ネットワークを「ポテンシャル場」に翻訳する適切な方法の考案:水素結合の有向性でラベル付けされた環状構造の寿命と分布を高速に解析するためのプログラムを作成し、上記(1)で言及したドメイン構造の定量化を試みた。まだベストな切り口は見つかっていないが、環状構造のサイズ分布や生成消滅のゆらぎが重要な因子であると見ている。 これらの知見は酸化還元反応・酸塩基反応の両方に関与する水素イオンや水酸化物イオンの固液界面近傍での振る舞いについての微視的なイメージを提供し、触媒(酵素)や電池などの特性改善の手がかりに繋がると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水素結合ネットワークの「ポテンシャル場」への翻訳方法の考案がやや遅れているが、水素イオンや水酸化物イオンの分布や運動を水素結合ネットワークの構造やダイナミクスの特徴と結びつける作業は概ね想定どおりに進んでいる。カウンターイオンの有無が系の緩和時間にここまで大きな影響を与えることは予想外であったが、カウンターイオンの水和構造が水素イオンや水酸化物イオンの自己束縛と拮抗する要素であるということ自体は、「ポテンシャル場」デザインという観点からは興味深い知見を与えているようにも思える。水素イオンや水酸化物イオンの挙動は当初予想よりも広い領域の情報を反映しているようで、第一原理計算の結果を用いてパラメータを最適化し古典分子動力学法を活用するという試みはもう少し工夫が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
水素結合ネットワークを「ポテンシャル場」に翻訳するためには複数の例からのフィードバックを必要とする。第一原理計算だけで取り扱える系のサイズには制約があるが、1.5nm×1.5nmの広さの系であれば1ヶ月に3セット程度のデータが取れるようになった。疎水・親水、酸性・塩基性、平坦・凹凸など多くの可能性を試してできるだけ幅広い典型例を集め、よりよい「説明変数」のセットを見つける。 また、これらのデータを用いて、当初の計画どおり「界面の修飾による『欠陥』の移動経路や速度の制御方法の検討」に着手する。H24年度に得られた結果は界面近傍の水の構造化を受けて水素イオンや水酸化物イオンの空間分布が特徴的に変化しうることを示すものであったため、『欠陥』の移動経路という部分は『局所酸性・局所塩基性』という切り口に焼き直して検討を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度は手元の計算機の解析能力の増強のために20万円、成果発表の費用(国内旅費・論文出版)として30万円を使用する。また、費用対効果の高い計算資源を確保するために、前年度の繰り越し分を含めた残りを北海道大学のSR16000システム等、外部計算機の使用料に充てる。
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