テラヘルツ光の屈折率が時間に対して周期的に変動する状態の実現と、その性質の解明を目指した研究に取り組んでいる。前年度までに、周期的に強度が変動する光源を開発し、テラヘルツ分光装置と統合することに成功した。また、低温成長GaAsを試料とした予備実験を行った。 前年度の予備実験の結果により、低温成長GaAsを試料として用いた場合、当初の目的である周期的な屈折率変動を実現するためには、励起光の最適な強度を探る必要があることがわかった。そこで、光ポンプテラヘルツプローブ分光により、様々な励起光強度についてテラヘルツ周波数領域での過渡的な光学応答を評価した。その結果、テラヘルツ周波数領域において十分な光学応答を得るために必要な励起光強度においては、光学応答の緩和過程にピコ秒を超える長い寿命成分が現れることが明らかとなった。従って、本研究の遂行のために、低温成長GaAsとは異なる試料を検討する必要があることがわかった。 用いる試料として様々な物質を検討した結果、金属に着目した。金属薄膜はテラヘルツ周波数領域で大きな誘電率をもつ。従って、光励起によるわずかな電子温度変化でもテラヘルツ光学応答を大きく変える可能性が期待される。テラヘルツ光学応答に大きな影響を及ぼすのは、伝導の減衰に寄与する電子格子相互作用である。金属の種類によって、電子格子相互作用の大きさや、その温度依存性は大きく異なる。特に、白金は電子格子相互作用の電子温度依存性が顕著であるため、試料として適している。 白金薄膜を試料として、光ポンプテラヘルツプローブ分光により、試料のテラヘルツ周波数領域における過渡光学応答を評価した。対照として、典型的な単純金属である金を同じ実験条件で評価した。その結果、金と比べて高速なサブピコ秒の過渡的な光学応答変化が存在することを明らかとした。
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