研究課題
本研究ではCuClの単結晶における励起子分子共鳴ハイパーパラメトリック散乱(BR-HPS)を効率よく実現させて,そこから得られる多光子量子もつれ状態を観測することを目標にする.24年度では,まず励起パルス光源の構築を行った.提案していた4f光学系と空間変調を用いた光学系の構築がほぼ完成し,その結果,理論的に提案しているスペクトルを有するフェムト秒パルスを生成することに成功した.また更に,4光子を検出する光学検出系の構築を行った.これらには,申請書で提案したように,2つの分光器と4つの光子計測用光電子増倍管,および光子信号の絶対時間を記録できる多チャンネル時間相関器を用いた.その結果,得られた多チャンネルの光子の絶対時間データを解析することにより,単一の光子計測から4次の時間相関測定までを同時に得られる測定に成功した.これらを組み合わせて,4光子の光子計測が既に可能な状況になっている.24年度では,実際にCuClの単結晶を用いてBR-HPSの観測を行った.その結果,以前に観測されているような2光子の(偏光)量子もつれの観測に成功した.また,先述のような光子計測系を新たに導入することによって,従来の観測より約200倍の効率での光子対計測が可能となった.この成果により,4光子以上の多光子量子もつれの測定が可能となると考えられる.さらに,最終的に4光子の信号計測に成功した.これらの結果は,まだ解析が不十分な状況のため確たることは述べられないが,多光子量子もつれの観測に大きくつながる結果であると考えられる.
2: おおむね順調に進展している
24年度における,研究の進捗状況は,当初の研究計画に対して概ね計画通り達成されていると考えられる.計画では,主に初年度に2つの実験系構築とその検証を目標にしていた.そのうちの1つ目は,励起パルス光源の構築である.これについては,エネルギー変調制御系の構築をまず行いほぼ完成した.また,波数ベクトル変調制御系についてはまだ未完成だが,これについては現状までに構築している系でも今後の実験にほぼ差し支えない状況である.また,これら光源を用いて励起子分子共鳴ハイパーパラメトリック散乱(BR-HPS)による光子対生成実験が成功した.したがって,光源開発としてはまだ改善する余地が残っているが,今後の実験に使用するという観点では目標を達成している.計画で述べた2つ目は,4光子量子相関測定系の構築である.これについて,提案していた実験系は完成した.また,実際に完成した測定系を用いて,BR-HPSからの光子対の計測に成功した.得られた結果を検証すると,従来の観測系と比較して約200倍の計測効率を得ることが出来た.この飛躍的な効率の上昇は,新たに構築した測定系の工夫によって初めて得られたものである.これらの結果は,多光子の計測効率にも大きく寄与するものであり,実際に24年度の最終実験では最高で4光子の測定に成功した.このように,当初計画通りに2つの主な実験系構築に成功し,そのデモンストレーションとして,4光子観測の結果を得ることが出来た.
まず,4光子時間相関測定について,さらなる精度の向上を目指す.現時点で得られている実験結果では,使用している検出器などの(計数感度)量子効率や透過効率などから得られる理想的な系全体の検出効率と比較すると,まだそれに達していない.これは,光学系構築の不完全性や試料の状態(表面の平坦性や,全体の形状の不均一,保持するときの傾きなど)による影響であると考えられる.目標としている測定には,検出効率ができるだけ良い必要が有るため,今年度はこれら検出効率を劣化させる影響を一つづつ排除してくことが大切であり,それを行なっていく.また,4光子における偏光の相関測定を行う.通常,4光子の偏光相関測定については従来の方法では1光子の測定につき,1セットの偏光フィルタ,スペクトルフィルタ(分光器)が合計4セット必要であったが,今回,新たな偏光相関測定スキームを考案した,これは2セットのフィルタ系で実現可能であり,それを構築する.これにより,4光子偏光相関測定結果を得て,4光子の偏光量子もつれの度合いや,密度行列の導出を行う.また,申請書にて考案しているBR-HPSからの多体量子もつれの同軸ビームの放出について実験的にデモンストレーションする予定である.これは,これまで準備してきた励起パルスのエネルギー及び波数ベクトルの変調によって新しいスキームの位相整合条件を利用することで実現可能であると考えられる.これらの方法により,高強度の同軸量子もつれ多光子が得られたら,最終的に量子干渉実験についてチャレンジする予定である.
該当なし
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