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2012 年度 実施状況報告書

多重極限STMの開発と有機導体の電子相の研究

研究課題

研究課題/領域番号 24654095
研究種目

挑戦的萌芽研究

研究機関北海道大学

研究代表者

市村 晃一  北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50261277)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2014-03-31
キーワード走査トンネル顕微鏡 / 高圧 / 有機導体 / 電荷秩序
研究概要

本研究で使用する高圧走査トンネル顕微鏡(STM)の装置開発を行った。本装置は、高圧セル、STM本体、粗動機構、ヘリウムガス圧発生装置などからなる。まず、高圧セルをヘリウムガス圧発生装置と接続し、常温で100 MPa (1000気圧) までの加圧試験を行った。続いてSTM本体を高圧セル内に収納するためのフレームの製作に取りかかった。数回の試作の後にフレームの完成に至った。さらに、このフレームに合う仕様のSTMスキャナーを取り付けSTM本体を構築した。トンネル電流検出用のプリアンプを改良しノイズを低減させた。これらの装置系を用い、現在高圧下でのSTMの動作確認を行っている。
また、新たに購入した液体ヘリウムデュワーにクライオスタットを組み込み冷却系を整備した。
装置系の整備と並行して単結晶試料作成を前倒しして行った上で、室温・常圧下における有機導体alpha-(BEDT-TTF)2I3のSTM観察を行い、その電子状態について調べた。この物質は常圧下では135 K以下で長距離クーロン相互作用による電荷秩序を形成し、金属から絶縁体へと転移する。296 Kにおいて、単結晶a-b面において様々なトンネル条件の試行の結果、ドナー分子の配列が明確にわかる鮮明なSTM像を得ることに成功した。得られたSTM像では、単なる周期的配列のみならず、各サイトのスポットの形が異なることが見出され、ドナーサイトを同定することができた。
さらに、a軸方向にスポットの明るさがドナーサイトの2倍周期で変調していることが見出された。このことは、電荷のストライプ構造が生じていることを意味する。本結果は、STMで観測される微小な領域では、電荷秩序転移温度(135 K)よりもかなり高温の室温(300 K)において、すでに電荷の不均化が生じていることを示すことであり、電荷秩序形成における新しい知見である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

高圧STMの構築に関しては、フレームの製作に時間がかかったため、若干の遅れを生じている。フレームの満たすべき条件として、高圧セル内は狭い空間であること、また収納されるSTM本体とのクリアランスも少ないという大きさについての制限がついている。STM本体が固定されるので剛性が最も重要となるが、これに加えて試料やSTM探針の交換が容易に行えるようなハンドリングの良さも要求される。これらの仕様を満たすべく試作を繰り返したことにより時間を要したが、フレームの完成には至った。
一方、装置開発と並行して行った有機導体についてのalpha-(BEDT-TTF)2I3についての常温・常圧におけるSTM観察では、転移温度より十分高温ですでに電荷不均化が生じるという新しい知見が得られた。これは予想を大きく上回る成果であった。

今後の研究の推進方策

平成25年度は、まず高圧STMの動作確認を行いこれを冷却系に組み込んだ上、磁場を印加できるようにし多重極限(高圧・低温・強磁場)STMを完成させる。平成24年度に行った室温・常圧でのSTM観察で電荷不均化に関する新たな知見が得られたalpha-(BEDT-TTF)2I3を測定対象とし、圧力・温度・磁場をパラメーターとした微視的実空間観察による電荷秩序の発現機構の解明に着手する。
1. [高圧STMの動作確認] 高圧STM装置の動作確認を室温で行う。
2. [高圧STMの冷却系への組み込みと磁場の印加による多重極限STMの動作確認] 高圧セル(高圧STM)専用のインサートデュワーを製作し、この冷却系に高圧STMを組み込む。さらに、新規に導入する超伝導磁石電源装置と現有の超伝導磁石を接続する。77 Kでの動作確認ののち10 Kまで冷却し磁場を印加する。300 MPa、10 K、10 Tの条件下で参照試料観察し、多重極限(高圧・低温・強磁場)STMの動作を確認する。
3. [alpha-(BEDT-TTF)2I3の高圧・低温STM/STS測定による電荷秩序パターンの観測] 2次元有機導体alpha-(BEDT-TTF)2I3に対して高圧・低温・強磁場STM/STS測定を行う。電荷秩序パターンの観察を行うとともに、電荷の不均化を見積もることにより、電荷秩序の発現機構を議論する。
4. [結果をまとめる] 本研究で得られた成果をまとめる。本研究での成果は、学術誌に投稿するとともに、日本物理学会において発表する。

次年度の研究費の使用計画

結晶成長に使用する溶媒1,1,2トリクロロエタンに関して、結晶成長法の工夫により使用量を減らすことができた。このため購入量を減らし残額9,906円が生じた。この残額は今年度研究費と合わせSTM探針の購入に充てる予定である。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2013 2012

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] Charge Stripe Structure in FeTe2012

    • 著者名/発表者名
      Y. Kawashima, K. Ichimura, J. Ishioka, T. Kurosawa, M. Oda, K. Yamaya and S. Tanda
    • 雑誌名

      Physica B

      巻: 407 ページ: 1796-1798

    • DOI

      doi:10.1016/j.physb.2012.01.032

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Mixed Density Wave State in Quasi-2D Organic Conductor2012

    • 著者名/発表者名
      K. Katono, K. Ichimura, Y. Kawashima, K. Yamaya and S. Tanda
    • 雑誌名

      Physica B

      巻: 407 ページ: 1827-1830

    • DOI

      doi:10.1016/j.physb.2012.01.041

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Fluctuating Superconductivity in the Strongly Correlated Two-Dimensional Organic Superconductor kappa-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2 in an In-Plane Magnetic Field2012

    • 著者名/発表者名
      S. Tsuchiya, J. Yamada, S. Tanda, K. Ichimura, T. Terashima, N. Kurita, K. Kodama and S. Uji
    • 雑誌名

      Physical Review B

      巻: 85 ページ: 220506-1-4

    • DOI

      DOI: 10.1103/PhysRevB.85.220506

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Reply to “Comment on ‘Charge-Parity Symmetry Observed through Friedel Oscillations in Chiral Charge-Density Waves’”2012

    • 著者名/発表者名
      J. Ishioka, T. Fujii, K. Katono, K. Ichimura, T. Kurosawa, M. Oda and S. Tanda
    • 雑誌名

      Physical Review B

      巻: 86 ページ: 247102-1-3

    • DOI

      DOI: 10.1103/PhysRevB.86.247102

    • 査読あり
  • [学会発表] alpha-(BEDT-TTF)2KHg(SCN)4における密度波状態2013

    • 著者名/発表者名
      上遠野一広、市村晃一、河島祐樹、山谷和彦、丹田聡
    • 学会等名
      日本物理学会第68回年次大会
    • 発表場所
      広島大学東広島キャンパス(東広島市)
    • 年月日
      20130326-20130329
  • [学会発表] STM observation of the density wave state in alpha-(BEDT-TTF)2KHg(SCN)42012

    • 著者名/発表者名
      K. Katono, K. Ichimura, Y. Kawashima, K. Yamaya and S. Tanda
    • 学会等名
      International Symposium on Material Science Opened by Molecular Degree of Freedom (MDF2012)
    • 発表場所
      宮崎国際会議場(宮崎市)
    • 年月日
      20121201-20121204

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公開日: 2014-07-24  

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