研究課題/領域番号 |
24654095
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
市村 晃一 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50261277)
|
キーワード | 走査トンネル顕微鏡 / 高圧 / 有機導体 / 電荷秩序 / 強相関電子系 |
研究概要 |
平成24年度に引き続き、高圧走査トンネル顕微鏡(STM)の装置整備を行った。常温における100 MPa (1000気圧)での動作試験を行い、STM動作を確認した。冷却系に組み込み、温度調節機構を整備した。 装置系の整備と並行して有機導体alpha-(BEDT-TTF)2X (X=I3, KHg(SCN)4, RbHg(SCN)4)においてSTM観察を行い、その電子状態について調べた。これに先立ち、電解法を用いて単結晶試料作成を行った。電流印加条件を工夫することにより、大量の単結晶試料を得る方法を見出した。alpha-(BEDT-TTF)2I3において、電荷秩序形成温度よりもずっと高温の室温において電荷のストライプ構造を見出した平成24年度の結果を受けて、alpha-(BEDT-TTF)2KHg(SCN)4および alpha-(BEDT-TTF)2RbHg(SCN)4に対して、STM測定を行った。これらの物質はalpha-(BEDT-TTF)2I3と同様のドナー配列をもつものの、電荷秩序とは異なる密度波(転移温度: 8-12 K)を基底状態にもつ。室温・常圧下でのSTM観察を行ったところ、これらの物質においても室温で電荷のストライプ構造が見出された。平成24年度の成果と合わせ、以上の3つの物質における結果は、電荷ゆらぎが強いと考えられるalpha型のドナー配列をもつ有機導体では、その基底状態によらず高温から電荷不均化を生じ電荷ストライプ構造をもつことを示している。このことは、強相関電子系の理解において長距離クーロン力が重要であるという新しい知見をもたらすものである。 なお、これらの成果の一部は国際会議CC3DMR 2013 (韓国・済州島、2013年6月24-28日)で招待講演で発表した。またISCOM 2013 (カナダ・モントリオール、2013年7月14-19日) で口頭発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高圧STM装置の整備に関しては、室温・高圧下での動作確認を行い、冷却系の整備にまで至った。 有機導体alpha-(BEDT-TTF)2Xに対する室温でのSTM観察で非常に興味深い結果が得られことを受け、平成25年度は対象とする物質を変えて室温STM観察を重点的に行ったため、低温・高圧下での有機導体試料を用いた測定には至らなかった。しかしながら、3つの物質における室温・常圧でのSTM測定から基底状態によらず電荷不均化が生ずるという新しい知見が得られた。これは予想を上回る成果であった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、高圧STMを用いて圧力と温度をパラメーターとした微視的実空間観察により、有機導体の基底状態に対する電荷不均化の役割を解明する。 1. [STM装置の真空排気系の整備] STM装置の真空排気系の改修および調整を行い、STMの分解能を向上させる。 2. [alpha-(BEDT-TTF)2X (X=I3, KHg(SCN)4, RbHg(SCN)4)の高圧・低温STM/STS測定による電荷不均化の観測] 2次元有機導体alpha-(BEDT-TTF)2Xに対して高圧・低温STM/STS測定を行う。この測定から電荷不均化の度合いを見積もり、強相関電子系の基底状態に対する長距離クーロン相互作用の役割を議論する。 3. [結果をまとめる] 本研究で得られた成果をまとめる。本研究での成果は、学術誌に投稿する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究のまとめとして、比較検討のための常圧STMによる測定が不可欠と判断し常圧STM装置を用いたSTM/STS測定を行っていた。この装置では真空排気装置の改修により分解能が格段に向上することが判明した。この改修と調整には3ヵ月程度を要することから、計画を変更して真空排気装置の改修をしつつ常圧STM測定を続行するとしたため、未使用額が生じた。この残額は真空排気装置の改修と調整に充てる予定である。 真空排気装置の改修と調整を次年度にわたって行うこととし、未使用額はその経費に充てる予定である。
|