研究課題/領域番号 |
24654099
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長谷川 哲也 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10189532)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 高温超伝導 |
研究概要 |
ナノ粒子サイズの均一性や化学的安定性を確保するため、バイオポリマーの1つであるデキストランを用いたYBaCuOナノ粒子を合成した(長尾科技大、ブリストル大との共同研究)。 続いて、走査型SQUID顕微鏡による超伝導の確認を行った。直径10μm(空間分解能~5μm)のSQUIDリングを用い、3 Kにおいて磁場印加下で走査SQUID顕微鏡観察を行った結果、ナノ粒子の集合体部分では弱い反磁性を確認したが、分散した個々のナノ粒子を捉えることはできなかった。そこでまず、様々な径のSQUIDリングを仮定し、ナノ粒子からどれほどの磁気シグナルが得られるかのシミュレーションを行った。その結果、1 μm程度の空間分解能であれば、個々のナノ粒子を識別できるとの結果を得た。 上記の結果に基づき、さらなる高分解能化に取り組み、直径1 μmのSQUIDリングを得た。一方で、より高分解が得られる低温超高真空型次期力顕微鏡(MFM)の高感度化にも取り組んだ。自己検知型カンチレバーの材質、カンチレバーの先端に蒸着する磁性材料の最適化や、計測回路の再設計を進めた結果、ボルテックスを検出できるほどの高磁場感度を実現した。 同時に、低温STM観察に向けた前処理方法の確立を急いだ。具体的には、ナノ粒子を分散させる溶媒によって、溶媒蒸発後の凝集状態が異なることがわかった。さらに、溶媒によっては完全に蒸発させることが難しく、STM観察の障害となった。試行錯誤の結果、試料により低級アルコールやケトンを使い分けることとした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
試料の合成は計画通りに進んだ。 一方、プローブ顕微鏡による観察は、予定の7割程度の達成率である。STM観察については、溶媒の選択が重要であることが判明し、その最適化に手間取った。ナノ粒子は凝集しやすく、再現性良く分散させるには、試料ごとに複数の溶媒を組み合わせる必要があった。 SQUID顕微鏡観察は、本来25年度に実施する計画であったが、前倒しして24年度から実験を開始した。予備実験の結果、個々の粒子を識別するには空間分解が不十分であることがわかったため、まずどこまでの空間分解が必要かのシミュレーションを行った後、SQUIDリングの小型化を図り、ほぼ望みの素子を得た。 より空間分解能の高い磁気プローブとしてMFMにも注目した。ただし、現有のMFMでは磁場感度が足りないため、より柔軟性の高いカンチレバー材料を選択するとともに、先端に蒸着する磁性体を、より飽和磁化の大きなものへと交換した。その結果、ボルテックスを観察できるほどの高磁場感度を達成した。
|
今後の研究の推進方策 |
各種走査プローブの整備、ならびに前処理技術の確立はほぼ終了したため、今後は測定に重点を移す。 STM観察では、まず温度依存性から、超伝導ギャップを評価し、ギャップが閉じる温度として、局所的なTcを決定する。さらに、微粒子間の間隔により、電子状態がどのように変化するかを測定し、微粒子間のジョセフソン結合について解析する。次に、磁場化でのSTM/STS測定から、磁束量子の直接観察を試みる。なお、STMが観測するのはギャップの振幅のコヒーレンスであるが、銅系超伝導体の場合、振幅のコヒーレンスと位相のコヒーレンスで転移温度が異なることが知られている。位相のコヒーレンスを検知する磁気測定と比較し、超伝導発現機構に関する知見を得る。 続いて、弱磁場下で走査型SQUID顕微鏡(SSM)測定を行い、マイスナーシグナルを検出する。これによりTcの空間分布を求め、試料全体が均一な超伝導を示すか、部分的に超伝導に転移しているかを判断する。また、温度依存性から、位相コヒーレンスの転移温度を決定する。同様に、MFMを用いてより空間分解能の高い測定を行い、SQUID顕微鏡の結果と比較検討する。 以上より、ナノ微粒子系で特異な高温超伝導が起こっているかどうか、実験的に検証する。
|