本研究では、超流動ヘリウム中で動く超伝導モーターを開発する。最近の我々の研究から、粘性のない超流動ヘリウムでも、量子渦を付着させた物体を動かすことで超流動の流れをつくることがわかってきた。このアイデアをもとに、量子渦を付着させた物体を回転し、超流動ヘリウムに回転流を誘起するためのモーターを開発する。 1.超伝導モーターに、摩擦による発熱が小さく、また摩耗が少ないブラシレスモーターを採用した。モーター駆動には回転を検出するセンサーを必要とするが、回転制御が容易に行える利点がある。 2.モーター各部の低温特性。①ホールセンサーによる位置検出は、低温でホール電圧特性が著しく変化するため、使用できないことが分かった。②通常のベアリングはグリースが低温で固化するため、回転しない。しかし固体微粒子を利用する低温用ベアリングは、低温でも回転することを確認した。③モーターコイルのフェライトについて磁場-磁化測定を行い、室温では磁気ヒステリシスがほとんど無いが、低温ではヒステリシスの発生を認めた。 3.誘導起電圧を回転検出に用いる回転制御法を開発した。これにより温度を下げながらモーターを駆動したところ、-200℃(絶対温度 73K)まで回転制御に成功した。しかしこれ以下の温度では、モーターを駆動できなかった。 4.問題点と液体ヘリウム中で回転させるための解決策 モーターが回転する低温(-178℃)と室温での回転特性を比較し、低温では回転損失が発生していることが分かった。原因としてベアリングでの回転損失とフェライトでのヒステリシス損失が考えられる。駆動電流と回転損失の測定から、ベアリングでの損失は室温とほぼ変わらないのに対して、フェライトでの損失が低温で増加していることがわかった。低温でもヒステリシスの発生しないフェライトを選ぶことで、液体ヘリウム中でも回転損失の少ないモーターを実現することが可能となる。
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