スピン注入磁化反転を利用するスピントロニクス素子や光誘起相転移現象における系の状態変化は,系が熱平衡状態に達するよりも短い時間スケールで引き起こされる.これらの現象の微視的理解を目指して,本研究において,非平衡状態のダイナミクス,すなわち「中間過程の追跡」を行う計算手法の開発を目的とした.連続対模型においては量子輸送理論を用い,格子模型においてはテンソルネットワークの変分波動関数の時間発展を計算する手法を採用した.平成25年度の研究においては格子模型における基底状態の時間発展を計算する計算手法の開発を行った. はじめに一次元ハバード模型の基底状態に関する物理量を行列積状態(MPS)と呼ばれる変分波動関数を用いて計算する手法を開発した.MPSを用いる変分法は,これまでに励起スペクトルにギャップのある一次元スピン系において大きな成功を収めている.本研究において金属状態の電子系模型においても有用な手法となることを示した.システムサイズが100程度の系の基底状態のエネルギーの相対誤差は0.1%以下となる.運動量分布はTomonaga-Luttinger液体の振る舞いを示す.その臨界指数の定量的同定には、未だ計算精度が十分ではない. MPS変分波動関数の時間発展には,time-evolving block decimation (TEBD)と呼ばれる手法を用いた.この手法はトロッター分解に特異値分解を組み合わせる手法である.一次元ハバード模型における基底エネルギーと物理量の保存則の計算精度の評価から行い,時間変化を十分に精度よく計算する手法の開発を行った.初期状態としてスピン分極をした部分と常磁性状態の部分を接続した系を準備し,その状態をハバード模型に従って時間発展させたところ,系はスピン流を流してスピン分極をした部分が振動することを示した.
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