研究課題/領域番号 |
24654128
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 慎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10401150)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2013-03-31
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キーワード | 量子エレクトロニクス / 原子・分子物理 / 低温物性 |
研究概要 |
近年、量子縮退気体を用いた物性研究がますます盛んになってきている。中でもフェッシュバッハ共鳴を用いた相互作用の制御は中心的な位置を占めている。しかし現在行われている手法はバイアス磁場によるゼーマンシフトを用いて共鳴を実現しているため、1度に複数の共鳴にアクセスすることができない。本研究の目的は、バイアス磁場の代わりにラジオ波を用いてフェッシュバッハ共鳴を実現することである。 ラジオ波によるフェッシュバッハ共鳴は非常に線幅が細いと予測されているため、その実現のためには、最も浅い束縛状態のエネルギーを高い精度で測定することが必要である。そのためには2光子ラマン分光が適当であるが、2光子ラマン分光の信号強度は1光子遷移の強度に比例するので、1光子の光会合スペクトルを観測し、どの遷移が最も強い信号を与えるか検討することが必要である。そこで1光子の光会合スペクトルの観測を行った。 実験にはボース凝縮したルビジウム87原子を用いた。これはボース凝縮した原子気体の原子数密度は磁気光学トラップ中の原子気体より4桁程度大きく、大きな光会合レートが期待できるためである。また、カリウムではなくルビジウムを用いた理由は、大きなボース凝縮が安定に得られ、信号のS/N比が大きいこと、光会合に関する文献値が多く、実験が容易に始められること、などがある。 実験の結果、ルビジウム87のD1線(~795nm)から240~300GHzだけ負に離調した周波数領域に、幅~10MHz程度の振動準位を3本観測した。文献値との比較から、これらは0g-のv=188~190の振動準位であることが分かった。この値を基にポテンシャルカーブの計算を行い、v=186の共鳴エネルギーを計算し、予測した周波数周辺で光会合共鳴を観測することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H24年度にカリウム原子の2光子会合の実験も行い、その結果を基にカリウム原子の最も浅い束縛準位の束縛エネルギーを高い精度で決定する予定であった。しかし実際に実験を始めると蒸発冷却後に作られる極低温カリウム原子の原子数の安定度が低く、弱い2光子会合の信号が検出できるほどのS/N比を確保できなかった。そこで極低温原子の原子数の安定化を優先したため計画に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
冷却カリウム原子の原子数の安定化を行いたいが、まず第一段階として蒸発冷却直後のカリウム原子の数を把握し、実験後の原子数を初期原子数で割って規格化することで、実験のS/Nを増加させることを試みる。蒸発冷却後のカリウム原子数の非破壊測定には、位相コントラストイメージングとFMサイドバンド法の2つを行い、信頼性の高いものを採用する。
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次年度の研究費の使用計画 |
2光子ラマン分光を行うための光学素子や音響光学素子、アンプなどの高周波部品を購入する。
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