前年度にルビジウム87のボース凝縮体を用いて1光子の光会合分光を行い、D1線(~795nm)から240~300GHzだけ負に離調した周波数領域に0g-のv=188~190の振動準位を観測する事に成功した。マイクロ波を用いたフェッシュバッハ共鳴は極めて細いため、基底状態の束縛状態のエネルギーを2光子会合で正確に測定する事が必要になる。しかし上記の1光子会合の信号は極めて弱くまた安定しなかったため、2光子会合の信号の検出が極めて難しいことが予想された。そこで散乱長をマイクロ波で変化させたときの原子の振る舞いの変化の実証実験として、2原子種ボース凝縮体の相分離の実時間観測を試みる事にした。2種のボース凝縮体はその相互作用により混ざったり相分離したりする。マイクロ波で相互作用を制御できれば相互作用の高速な変調が可能になり、ドロップレットなど種々の興味深い状態が予言されている。ここでは磁場によるフェッシュバッハ共鳴なので高速な変調は難しいが、どのようなイメージングシステムで観測すべきか示唆を得る事ができる。ルビジウム87とカリウム41の混合ボース凝縮体を光トラップ中に閉じ込め、75ガウスにあるフェッシュバッハ共鳴を用いて2つの凝縮体が混合するようにした。このとき、重力方向の閉じ込めには波長809nmの光トラップを用い、重力の差による位置のずれが最小になるようにした。次に散乱長をわずかに相転移点より斥力側にすると、力学的不安定性により音波が励起され相分離が始まるはずである。位相コントラストイメージング法によりこの相分離の様子を実時間で観測する事を試みた。実験の結果、生成したドメインの大きさ(~20ミクロン)は理論的予想を一致したが、S/Nが足りず時系列を分解することはできなかった。この相分離の結果について日本物理学会で口頭発表を行ったところ、主に理論家から多くの問い合わせがあった。
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