基盤となるボース凝縮(BEC)した気体が、研究期間途中、光源の故障により生成困難となった。BECはリカバーしたものの、当初の計画が大幅に遅れたことは否めない。H26年度はBEC回復の他、光格子系全体の高速振動、2次元青方離調光格子での擬1次元系の生成と格子間隔可変のアコーディオン格子の構築を行った。まず、圧縮可能な二重双極子トラップ中に原子を誘導し、マルチモードレーザーの欠点を巧みに回避し、約4秒の蒸発冷却で10の6乗個のBEC生成に成功した。全光学的手法では画期的とも言える個数であり、BECの安定供給が可能になった。BEC回復後は、2次元青方離調光格子でアンチドット型格子を生成し、擬似的な1次元系が生成されるかをパラメトリック共鳴により調べた。通常の2次元光格子による1次元系の場合と比べ、低周波数側で共鳴のような現象を観測した。これはアンチドット格子の交差領域の形状を反映し(2次ではなく4次のトラップ)、そこに原子が1次元状に局在しているためであると考えている。また、ピエゾ素子上にのったミラーを駆動し、格子系全体を高速で振動させるシステムを作った。これにより量子渦生成に伴う超流動性崩壊の現象等を観測したが、振動振幅は3kHz、70nm程度が限界であった。現在、5kHz、100nm以上まで高速対応できるようピエゾ+ミラー系を改良し、今後は1次元系での可積分性を崩すトンネリング制御の実験へと進む予定である。結合1次元系における運動量の再帰現象を観測するには、系の個数を少数に制限する必要がある。そこで2本の青方離調したビームを小さな角度(可変)を付けて交差させ、アコーディオン型光格子を作り、最小10μm以下の狭い領域内に1次元系を制限するトラップを新たに作成した。今後はこれら一連の手法を組み合わせ、当初計画していた1次元の非平衡系のダイナミクスの実験を本格化させる予定である。
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