研究課題/領域番号 |
24654137
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
長岡 正隆 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (50201679)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 高分子・液晶 / 化学反応分子シミュレーション |
研究概要 |
近年、逆浸透膜に代表される有機高分子多孔質膜が注目されている。ところが今尚その微視的特徴や反応機構は必ずしも明らかとは言えない。これらの膜の原理を理解し、より多目的・多用途で実用化するためには、細孔形成や分子透過の微視的機構の解明が不可欠である。例えば界面重合反応で生成する膜に存在する架橋構造や襞構造の存在は、表面分析法などによって知られているが、その形成機構や水透過性に関する詳細は未解明である。そこで、本“挑戦的萌芽研究”では、有機高分子多孔質膜の合成反応過程を解明するために、原子論に立脚した非経験的量子化学と分子シミュレーションとを合体した新しい統計的手法(Ab initio QM/MM-MC/MD反応法)を開発し、一般的な重合反応の微視的標準理論の確立に挑戦する。 本年度は、理論・実験両面の論文等の調査を進めて、概念的整備と有機高分子膜系全般に関する実験データの収拾を行った。さらに有機高分子多孔質膜に対する計算化学的手法を吟味し、マクロ理論との接続可能性を探求した。また、計算化学的膜重合法の確立を目指して、MD法プログラムAMBERを活用したメトロポリス型モンテカルロ法に基づいた膜重合プログラムを開発した。実際、「残基」の作成・結合パターンの確定・力場パラメータの新奇決定すると共に、芳香族ポリアミド膜(MPD-TMC系複合膜)に対して、Ab initio QM/MM-MC/MD反応シミュレーションを実行した。MPD-TMC系複合膜は今日実験的に評価が定まっているアミド結合を持つ素材であるが、2官能のMPDと3官能のTMCからなるため、初期濃度比の違いによって、実際に、膜の形成状態が変わり、鎖状構造と網目状構造との存在比が変化した。これは実験的に示唆されているネットワーク孔とアグリゲート孔との存在比の差に対応するものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度計画で予定した内容に沿って進展しているため。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、おおむね当初の予定通り、次の各内容を実施する。 (1) 水とイオンの透過性の評価: 平成24年度に確立した膜重合モデリング法を適用して、MPDとTMCの組成比の変化、反応温度変化に応じた、いくつかのFT30膜を調製する。その中から典型的な特性をもつ膜に対して、水とイオンの透過性を評価する。また異方性をもつ2次元スラブ状の膜中の小分子の拡散過程を評価する必要があるため、膜に垂直な方向(z軸)に対しては自由エネルギー勾配(平均力)をもつ異方的Langevin方程式を基礎をおいて研究する。異方的Langevin方程式においては、摩擦係数行列、膜構成分子する原子レベルのランダム力が現れる。とくに摩擦係数行列のzz要素はz方向の拡散係数と比例するという関係がある。 (2) 可視化アプリケーションの開発: 本研究全体を統括する可視化アプリケーションの開発を申請予算で購入予定のグラフィカルPCシステムの支援の下で推進する。また、こうして得られる水とイオンの透過性に関する非平衡・非定常情報についての予測結果を実験結果と比較吟味する。本研究の中間的な報告を適当な学会(分子科学討論会、あるいは高分子学会など)において発表する事も予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究活動を通して判明した膜重合モデリングを行う計算負荷の大きさを考慮した結果、当初想定していた性能以上のグラフィカルPCシステムを導入することを計画している。そのために本年度中に生じた消耗品費等における予算額と執行額との差額分をH25年度の研究活動予算に組み入れて有効的に執行する予定である。
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