研究課題/領域番号 |
24654138
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 潤 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10200809)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 動的不均一性 / 揺らぎ顕微鏡 / 動的光散乱 / 等方性 / 可視化 |
研究概要 |
固体に比べて柔らかく対称性の高いソフトマターの物質群では、物質内の内部構造が動的に揺らいでおり、様々な内部自由度の運動がその物性を特徴づけている。特に、液晶、高分子、コロイドなどで着目されている、過冷却液体やガラス状態は、分子位置の秩序がなく液体と同等であり、既存の実験により観測できる密度などの空間の不均一性が、静的にも動的にも全くない。近年、ガラスの理論的研究からは、ミクロな自由度の「動き」の空間不均一性を表す、「動的不均一性」が重要な役割を担うことが分かってきた。本研究構想では、この「動的不均一性」の空間構造を像として捉える、全く新しい顕微鏡の原理と試作を提案しモデル的な物質を研究する。本構想は空間不均一性とは、全く別種の「動的不均一性」を顕微鏡像として捉える画期的な新しい原理を提唱するものである。 本年度は申請者独自の動的光散乱の顕微光学系を、マルチピンホールと高速高感度のCCDカメラを組み込んで作成した。まずネマティック液晶セルを短冊状のマスクで覆い、擬似的な「動的不均一性」を持つ試料として観測することを試みている。動的不均一性のサイズ、輝度、緩和時間などにより、顕微倍率・散乱角を調整して、観測可能な「動的不均一性」の性質を評価している。購入した組み込み型顕微鏡を用いて、試料・対物レンズ・ピンホールを正確に配置して固定し、2枚のレンズのフーリエ変換の原理を応用した申請者独自の光学系設計となっている。すなわち、レンズによって試料の波数空間像が結像している点にピンホールが置かれており、この脱着のみで動的光散乱測定と偏光顕微鏡検鏡が、同一の光学系で同時に行える特徴を持つ。レーザーを試料に斜め入射して散乱光を観察することにより、実像の結像面に試料上の異なる位置の散乱光を独立に集光させることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゆらぎ顕微鏡の試作を概ね達成し、来年度は動的不均一性のモデルとしての、擬似的なネマティック相あるいは、相分離構造を持つネマティックドロプレットを研究し、その性能の評価を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、モデル的な動的不均一系を研究し、顕微鏡の性能を評価同時に行う。具体的には、 1.マスクされたネマティック液晶 揺らぎ顕微鏡の動作確認のため、不透明の金属楔形電極のついたセルにネマティック液晶を封入し、楔電極を帯状のマスクとして擬似的な動的不均一試料とする。ネマティック液晶の配向揺らぎは、拡散モードであり、波数の-2乗に比例して緩和時間が変化する。そこで、数10msecに緩和時間にレーザーの入射角を調整し、揺らぎ顕微鏡の原理の証明と、時間・空間分解能のチェックをおこなう。 2.コロイド濃厚溶液の液体―ガラス転移 濃厚コロイド溶液の液体―ガラス転移点近傍では、コロイド粒子のブラウン運動に動的不均一性が現れることが理論的に示唆されている。コロイド粒子サイズを選択することで、揺らぎ顕微鏡の測定帯域に近い緩和周波数を選ぶことができるため、揺らぎ顕微鏡の動的不均一性観察の試行に適している。また、動的不均一性を実空間・実時間の動画として捉えられた例はなく、基礎物理学的にも重要な研究となる。また、散乱角・コロイド粒子サイズ・CCDピクセルサイズとの関係から最適なサイズを選定して実験をおこなう。 3.液晶高分子の液体―ガラス転移 一般の分子による過冷却状態・ガラス転移についての有効性を確認するため、緩和時間が遅く散乱能の高い、液晶高分子のガラス化について研究する。液晶高分子のガラス化では、分子の並進運動ともに回転運動もガラス化に関与すると予想される。 最終的に得られた結果を取りまとめ、国際会議や国内学会等で成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
基盤的な測定系は、24年度に購入し既存の装置と合わせて実験可能な状態にしたので、25年度は、液晶やコロイド溶液の購入、および成果報告に研究経費を支出予定である。
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