地震波鉛直異方性とは,鉛直方向と水平方向に伝わる地震波の速さが異なる地震波異方性のことで,鉛直軸を対称軸とする結晶選択配向や,水平の互相構造が有る媒質で起こりうる.日本列島下にそのような構造が大規模にある可能性は,「ラブ波とレーリー波の矛盾」の問題として知られていたが、近年深く認識されることなくそのままとなっていた.本研究では,日本列島下の鉛直異方性構造を,その存在が示唆された頃とはデータも解析手法も格段に進歩した現在の地震学を駆使し明らかにし,日本列島のマグマティズムや変形場の研究に新たな光をあてることを目指している. 本研究では,実体波走時異方性トモグラフィー,脈動ノイズを使った短周期表面波トモグラフィー,稠密アレイ解析を使った表面波トモグラフィーの三種類の異なった構造解析を統合し日本列島下の鉛直異方性構造を解明することをめざす. (1)実体波走時異方性トモグラフィー: 方位異方性を解く既存のトモグラフィーのプログラムを改訂・高度化し,鉛直異方性構造のトモグラフィーを可能にした.気象庁一元化震源やHi-net読み取りデータを使ってP波鉛直異方性トモグラフィーの解析を行った結果,パラメータ数の少ない鉛直異方性トモグラフィーの方が,方位異方性にくらべて,走時残渣を効率的に減少させることが明らかとなった. (2)脈動ノイズ・表面波トモグラフィー: 手法を高度化し,(1) 地震波干渉法と遠地地震解析を組み合わせて広帯域に表面波を解析することで地殻から最上部マントルまでの構造を同時推定し、(2) 鉛直異方性および方位異方性の推定を行った。その結果、下部地殻にも鉛直異方性が存在し、地殻内の層構造や流体の存在を示唆することを示した。また、マントルの方位異方性はマントルウェッジでは東西方向の流れを示唆するが、沈み込むスラブ内では過去の南北方向の流れを示唆することを明らかにした.
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