研究課題/領域番号 |
24654144
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
綿田 辰吾 東京大学, 地震研究所, 助教 (30301112)
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キーワード | 津波 / 太平洋東北沖地震 / 東日本大震災 / チリ地震 / 津波速度低下 / 津波初期反転位相 |
研究概要 |
深海域での津波の伝播速度が海洋の密度成層により変化する様子を、水深に依存して音速と密度勾配が変動する海洋層に適応可能な伝播行列法を新たに開発し、調査した。水深4キロの海では、0.44%津波速度が非圧縮一様密度の海洋層に比べて低下し、その低下量の3分の2は水の弾性エネルギー蓄積のため、3分の1は主に静水圧による海水の密度成層に起因することがわかった。世界各地の様々な海洋モデルに対し津波速度を計算した。海底まで暖かい地中海を除き、世界中の津波速度の低減はほぼ水深に比例することがわかった。海水の鉛直構造変化による津波速度変動は0.01%以下であり、津波速度の時間変化を検出すること現実的に不可能であることも判明した。 深海で観測された2010年チリ地震と2011年東北沖地震から発生した津波は、線形長波の数値津波シミュレーションより、系統的に最大15分遅れることが広く太平洋域で観測された。また、発生域から遠く離れた地点では共通して最大波高到達前に奇妙な反転位相をもつ津波初動が観測された。測定された津波の位相速度は逆分散性を示し、1000秒より長い周期帯では遅くなっていた。これらは重力・弾性結合した津波の津波の位相速度と一致しており、海水の疎密、弾性地球への加重、津波の伝播時の物質移動に伴う地球重力場の変動の効果が津波伝播遅延と初期反転位相の原因であることを示している。簡単な1次元津波伝播実験で津波の逆分散が遠地で主要波高の前に先行する反転位相を生成することを確認できた。長波津波シミュレーション波形に適切は位相補正を施すことにより、これら効果を考慮にいれた実際の水深を伝播する、新たな津波シミュレーション法を開発し、その波形は、遠地における初期反転位相を含む津波観測波形を正確に再現した。観測波形とシミュレーション波形の走時差は5分以下に縮小し、波形の差異は驚く程減少した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2本の論文が新たに国際紙に掲載された。昨年までの津波に伴う気圧波解析に加え、津波の2010年チリ地震津波、2011年東北沖地震津波などで観測された太平洋を横断する津波の伝播速度低下の原因を世界に先駆けて究明した。また低下の原因を海水圧縮性・固体地球の弾性・質量移動に伴う重力場変動にあることを示し、これらの効果を含む合成津波波形が、線形長波に対する位相補正として表現できることを発見し、スーパーコンピュータによる大規模計算を行わずに計算時間を短縮し、最小限の計算資源で可能な津波シミュレーション法を開発した。
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今後の研究の推進方策 |
遠地津波の伝播波形から位相速度低下を測定したが、今後は群速度の測定を目標とする。津波の分散性は位相速度とともに、周期に依存する群速度としても原理的に測定可能で世界一番乗りを目指す。この新しい津波シミュレーション法を過去の巨大地震で発生した長距離伝播津波波形に適応し、江戸時代末期から世界各地の潮位計で計測された遠地津波の震源解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度に、2011年東北沖地震津波と2010年チリ地震津波に関する研究を実施し、25年12月に論文を投稿したところ、査読者側の理由により遅延が生じた。査読は4月に完了し、論文は受理されたが、論文出版費の支払いは5月以降になる予定である。これにより25年度中に出版に至らず、未使用額が生じた。 論文出版費 288,618円
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