研究課題
前年度までの研究で、本研究で採用している海面水温を観測データに強く緩和させて初期化する手法(海面水温ナッジング法)は、太平洋で大きな成功を収めてきているが(多くの海域で、同化データと初期値データの上層300mにおける蓄熱量偏差の相関係数が0.6以上)、大西洋とインド洋では、その相関係数が、0.5以下で、負の海域も存在しており、初期化にも問題があることが判明した。したがって、初期化が季節予測精度を下げる一因となっていることが明らかになった。そこで、今年度の研究では、その原因を探ってみたところ、現実とは異なり、海面水温ナッジング法を用いた大気海洋結合モデルでは、ほぼ一年を通して海面水温偏差と外向き長波放射(OLR)偏差の間には、負の相関が見られるためであることが明らかになった。また、その結果、現実とは逆向きの風がモデル内で引き起こされ、逆符号の赤道ケルビン波/ロスビー波が励起されるため、観測とモデルの上層300mの蓄熱量偏差は、負の相関になってしまうことも明らかになった。一方、太平洋熱帯域では、観測でもモデルでも、大部分で海面水温とOLRの相関係数が負になっており、中部太平洋赤道域におけるモデルと再解析データの東西風偏差も1年を通して0.8以上の高い相関係数となっていた。つまり、大気データを同化していないにも関わらず、海面水温ナッジングを行うことによって、赤道上の東西風偏差がよく再現されていた。このため、同化データとモデルの上層300mの蓄熱量偏差も広い海域で相関係数が高くなっていたと考えられる。以上より、大西洋熱帯域の予測精度をさらに向上させるためには、風応力偏差も観測データに緩和する等、海面水温ナッジング法を改善する必要性が示唆された。
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