研究課題/領域番号 |
24654153
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
津田 敏隆 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (30115886)
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研究分担者 |
古本 淳一 京都大学, 生存圏研究所, 助教 (10402934)
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キーワード | ウィンドプロファイラ / 水蒸気 / パッシブレーダー / 電波伝搬 / メソ数値予報モデル |
研究概要 |
本研究課題を着想した段階では、ウインドプロファイラレーダー(WPR)からの側方放射が周囲の固定物で反射してくる電波(クラッター)を測定し、その伝搬遅延から大気情報(経路に沿った水蒸気積分量)を得ることを考えた。つまり、伝搬遅延長(位相)の変動はクラッターエコーの経路上の水蒸気量の変動に関係付けられるため、この遅延長を気象数値予報モデルにデータ同化すれば、気象擾乱時の大気状態をモデルで再現し、予報精度を向上させることができると期待される。 しかし、信楽MU観測所におけるWPRを用いた実験で、クラッターの位相抽出が困難であることが判明したため方針を変更した。WPRの近傍で側方放射を受信し、同時に遠方に設置した受信システムでも直達電波を検出し、これらの伝搬遅延の位相差を測定するシステムの開発を行うこととした。この方法では、WPRの電波を傍聴するのみであり、WPRのシステムの改修やデータ取得法の変更は一切必要がない。ただし、送受信が独立同期のシステムであることから、それぞれの基準信号の周波数安定度が問題となる。ここで、WPRで用いられている水晶発振器は周波数揺らぎが有意であり、その影響を軽減・除去することが本研究のキーポイントである。 直達波経路が長いほど全体の大気伝搬遅延が大きくなり測定しやすくなるが、データ同化に用いる最短距離を10㎞とし、その経路上での大気伝搬遅延の変動を時間分解能10分で推定することを目標とする。地表付近では、乾燥大気および湿潤大気の合算として、経路長10㎞で約3m程度の大気伝搬遅延が発生する。このうち、降雨に伴う変化として、10分間に3.5㎝の伝搬遅延長の変化が起こると想定し、ことを検出目標とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
受信システムとしてソフトウェア・ラジオを用いているが、WPRの周波数帯(1.3GHz)における分解能は1㎜程度であるので、十分な性能を備えている。一方、位相推定には受信システムの周波数揺らぎ(時計誤差)による位相雑音が大きな影響を与える。水晶より安定であるルビジウム発振器を用いた受信システムを構築し、位相雑音の定量化を行ったところ、20分間の積分で位相雑音をほぼ目標値まで低減できることが確認できた。 さらに位相雑音を抑えるために、GPS電波を参照する手法を考案した。高精度単独測位によりGPS受信機(2周波)の時計誤差を推定し、WPRの受信システムと同期させることで、位相雑音を補正する手法を検討している。10分間の時間積分で目標値の4分の1以下まで位相雑音を抑えられると見積もっており、今後、実験により検証を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、大気中の水蒸気量が多い夏に集中的に実験を行う。WPRから10 km~数十 ㎞の伝搬経路が得られる観測点を選び、GPS解析を利用した位相雑音の補正手法に関する実証実験を行う。この実験に向けて2周波GPS受信機を組み合わせたWPR受信システムの設計を行う。また、観測で推定誤差を定量化するため、他観測機器(水蒸気マイクロ波放射計など)による同時観測を検討する。 気象庁が運用するWINDASへ適用を視野に入れ、将来的に実用化を目指す。また、この受信システムが成功すれば、WPRのみならず、TV放送をはじめ様々な電波源を用いて、大気情報を抽出できる汎用システムとして発展する可能性がある。様々な電波源による伝搬経路が交差する場合、トモグラフィ解析の適用も可能となるかもしれない。
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次年度の研究費の使用計画 |
受信システムにルビジウム発振器を用いたが、その位相雑音が予想外に大きく、精度を十分に確保できなかった。これを改善するために、新たにGPS解析を利用して精度を向上させる手法を考案したが、実験装置の試作ならびにGPS解析システムの構築に時間がかかると見込まれた。 GPS受信機を組み込んだWPR受信システムの改良のために物品を購入する。また、GPSデータ解析システムの構築のための消耗品等の経費が必要である。研究打ち合わせと情報収集、およびフィールド実証実験のために旅費が必要である。
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