大気中に含まれる水(水蒸気、雨滴、雪氷)は凝結・蒸発の過程で熱エネルギーの交換を行い、様々な気象擾乱の駆動源となっているが、水蒸気量の分布は時間・空間について大きく変化するため、その変動特性を精密に把握するのは容易ではない。 本研究では、京都大学・生存研の信楽MU観測所にあるウインドプロファイラレーダー(WPR: Wind Profiling Radar)からの側方放射をWPRとは別に設置した受信システムで検出し、その電波伝搬の遅延長から伝搬経路に沿った地表付近の水蒸気の積分量を優れた時間分解能で捉えるという計測技術の開発を目指した。WPRと遠方受信システムの距離を10 kmの場合、気象擾乱による伝搬遅延長変化は約 3.5 cm/10分となることをメソ数値予報モデルから見積もった。この電波位相の微小な変化を精度よく捉えるには、基準信号の周波数安定度が十分に高いことが必要である。しかし、WPRの水晶発振器は周波数揺らぎが比較的大きいため、受信システムでその影響を除去する必要がある。 そこで、WPR近傍と遠方に受信システムを設置し、それぞれが受信した電波の位相差を測定することにした。2つの受信システムが独立同期であることに由来する周波数揺らぎの差違が小さくするため、基準信号としてルビジウム発振器を用いた。さらに、この周波数揺らぎを軽減するために、受信システムと解析ソフトの開発を行った。オープンソフトウェアGNURadioで動作するデジタル受信機USRP N200とUSRP B210を用いた。USRP B210で検出されるIQデータから位相遅延量の変化を捉えるために、低いSN比でも信号を検出できる短時間フーリエ変換を用いた解析アルゴリズムの開発を行った。最終的に遠距離でのフィールド実験は十分にできなかったが、室内実験による安定度の試験から、ある程度の時間積分をすることで水蒸気変動の検出が可能であると見積もれた。
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