研究課題
平成25年度は1)含微化石チャート、珪質ストロマトライトの主成分分析、微量元素分析(希土類元素と重金属元素 )とCe同位体比分析、2)珪質ストロマトライトの薄片作成と微細構造観察、3)層序データと岩相解析にもとづく堆積環境の復元、4)名古屋大学で作成した薄片を用いて海外研究協力者であるフランスのリル第一大学のKevin Lepot博士が二次イオン質量分析計を用いた個々の微化石の炭素同位体を行った。また11月に関連する国際会議『International Biogeoscience Conference 2013 Nagoya, Japan』を主催した。それぞれの成果は、1)含微化石チャートはクロム、亜鉛、ニッケル等の重金属に富む一方で、珪質ストロマトライトはヒ素に富み、両者とも希土類元素パターンは非海成であった。また、セリウムの負異常は変質作用の影響を受けている可能性が高いことが示唆された。2)珪質ストロマトライトには有機物が粒状に分布するところ、繊維状に分布するところがあり、いずれも分解のすすんだ微化石の可能性が示唆された。一方、含微化石チャートにみられるストロマトライト状のコーン構造はその内部構造等から珪質シンターであると結論づけられた。3)含微化石チャートは海岸近くの入り江の様な閉じた海域の周辺(陸域)において熱水活動によって形成され、一方ストロマトライトはその熱水が流れ込むような浅い海域で形成されたというモデルを得た。4)個々の炭素同位体比を系統的に分析し、レンズ状微化石と球状微化石では異なる同位体比(-30~-40‰)を持つことを明らかにし、ストロマトライトは-27‰程度であった。国際会議は好評であり、90名の参加者(うち外国人30名)を得、この成果をフルペーパーのプロシーディングスとして、GeobiologyからSpecial Issueとして発行予定である。
2: おおむね順調に進展している
珪質ストロマトライトとそれに形状は類似するが形成プロセスが全く異なる珪質シンターを微細組織の観点と微量元素組成の観点から明確に区別出来た点は重要な成果である。また過去の調査によって得られた層序のデータ、岩相の水平方向の変化のデータから、堆積場をある程度特定することができた。推測される堆積場は、陸域も想定されるものであり、34億年前に既に陸域生態系が成立していた可能性を提示することができた。さらに珪質ストロ マトライトの微細構造の観察により、その生物起源性は揺るぎないものになった言えよう。珪質ストロマトライトの同位体比は、その構築微生物がシアノバクテリアであったことを強く示唆し、本研究で提案した、酸素オアシスモデルを裏付けるデータである。微化石抽出実験により、それらが保存性の高い有機質の膜を有していることを立証した。以上のように本研究で様々な成果が得られているが、以下のような課題が残されている。1)酸素オアシスモデルをより信頼性の高いものにする為には、堆積場モデルの確実性を高めることが必要であり、追加調査が必要である。2)微化石が真核生物であった可能性はますます高まっているが、いまだ証拠は十分とはいえない。バイオマーカー分析の結果が待たれる。3)珪質ストロマトライトと微化石の関係性を明らかに必要がある。これらのことから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
すでに集まっている多くのデータについては、解析を進め、なるべく早く論文化していく。珪質ストロマトライトについては、薄片観察と共に、HFエッチングを施した後電子顕微鏡を用いて観察することで、それらの生物起源性をより確かなものにしていく必要がある。微量元素、同位体から微化石形態まで多岐にわたるデータを有機的に解釈して、今後の展開につながる課題を見いだす作業を進める。
平成25年度は研究計画立案時点で構想していなかった、国際会議を主催することになり、その運営とこれまでの研究成果のとりまとめが仕事の中心となった。試料採取(既に分析に供する分は十分あると判断したので)を見送ったことにより、次年度使用額のかかる状況が生じた。9月に試料採取を行う予定であり(1名、10日間)、その他国際会議の出席を予定している。
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Geology
巻: 41 ページ: 651-654
10.1130/G34055.1
Geochimica et Cosmochimica Acta
巻: 112 ページ: 66-86