研究課題/領域番号 |
24654169
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
守屋 和佳 金沢大学, 自然システム学系, 研究員 (60447662)
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研究分担者 |
石村 豊穂 茨城工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (80422012)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 古生態 / 古環境 / 地球生命史 |
研究概要 |
本年度は,まず,東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所(東京大学三崎臨海実験所)の海洋調査船臨海丸航海により,相模湾の水深約1000m地点の水柱において採取された現世浮遊性有孔虫のうち,光共生種と,非共生種の殻体の酸素・炭素同位体組成の分析を行った.分析には,産業技術総合研究所現有の,超微量炭酸塩同位体分析システム(MICAL―CF―IRMS)を用いた.また,浮遊性有孔虫と同時に採取した現場海水の酸素同位体組成と,溶存無機炭素の炭素同位体組成の分析も行い,有孔虫殻の酸素・炭素同位体組成と比較することで,有孔虫の生態の検討を行った.有孔虫殻の酸素同位体組成分析の結果,海洋表層付近に生息する光共生種も,亜表層~中層に生息する非共生種も,成長の初期には水柱中のクロロフィル濃度極大層付近に生息し,成長とともに,非共生種は生息深度を深化させていくことが示された.また,炭素同位体組成分析からは,共生種,非共生種ともに成長初期は成長とともにδ13Cが大きくなるが,成長中期になると,非共生種では,δ13Cの増加が停止し,成長後期まで一定の値を維持するのに対し,共生種では,δ13Cが成長後期まで増加を続けることが示された.これは,当初より予測された,共生種における藻類の選択的12C除去の影響を反映していると考えられ,有孔虫殻体の同位体組成分析からその生態を議論できることを意味している. そこで,統合国際深海掘削計画第330次航海で得られた海底表層堆積物に含まれる現世種の有孔虫化石個体に上記の分析手法を適用し,その古生態の推測を行った.その結果,化石個体においても共生種と非共生種との間で,酸素同位体組成による生息水深の識別,炭素同位体組成による光合成の有無の識別が可能であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は,分担者の石村が開発・運用する.超微量炭酸塩同位体分析システムにおいて,有孔虫1個体内の安定同位体個体発生を分析し,その結果が,実際の生態を反映していることを確認するために,現世において採取された浮遊性有孔虫殻の分析と,採取された有孔虫海水の同位体組成との比較を行う計画であった. 上述のように,平成24年度は,これらの解析に加え,水柱のクロロフィル濃度や栄養塩類の濃度の測定も行い,これらの値と,浮遊性有孔虫の生息深度との議論も行うことができた.さらに,統合国際深海掘削計画第330次航海によって得られた現世種の化石個体にもこの手法を適用し,化石個体においても同様の手法でその古生態推定が可能であることを示した. また,代表者は,統合国際深海掘削計画第342次航海に参加し,浮遊性有孔虫化石を豊富に含む新第三紀,古第三紀,および白亜紀の海底堆積物を採取した.特に白亜紀の堆積物から,平成25年度の研究計画の対象である浮遊性有孔虫,Contusotruncana,Planoglobulina,Racemiguembelinaなどを豊富に含む堆積物を得ることに成功しており,平成25年度の分析対象である試料も確保した.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は.当初の計画どおりに,現生も含め古第三紀以降には全く見られない独自の形態を持った種が多数知られている白亜紀の有孔虫の解析を行う.古第三紀および.新第三紀においては.旧来のデュアルインレット式安定同位体質量分析計(DI―IRMS)を用いた先行研究により,光共生系の研究が行われ,一定の成果が得られてきた(Norris,1996など).ところが,白亜紀の種においては.研究例も少なく,明瞭な結果を得ることができていなかった.これには,A)白亜紀の種は個体の大きさが小さいためDI―IRMSでは分析が困難なこと,および,B)化石の続成変質の影響を無視できず,多数の個体を利用せざるを得ないDI―IRMS分析では保存の悪い試料も同時に分析することになってしまうこと,などの要因が考えられる.本研究では,MICAL―CF―IRMSを導入することで,極めて保存のよい個体を1個体でも得ることが出来れば,その同位体分析が可能であり,上述のA,Bの問題を一度に解決して,理想的な結果を得ることができる.上述のように,代表者は,これらの分析に最適な試料をすでに得ることに成功している.そこで,特に,Contusotruncana,Planoglobulina,Racemiguembelinaなどの,海洋表層付近に生息していたと想定されている属と,Globotruncanita,Radotruncanaなどの生息水深のやや深い属を分析することで,浮遊性有孔虫と光合成藻類との共生関係が,浮遊性有孔虫の進化史上最初の多様化期である白亜紀にまで遡れるのか検証する.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は,既存の超微量炭酸塩分析システムを一旦解体し,分担者である石村が所属する茨城工業高等専修学校に導入予定である,より高精度の新たな質量分析計に対して,超微量炭酸塩分析システムを移転することを予定している.これにより,これまでより少ない量の炭酸塩の同位体組成の分析が可能となり,白亜紀のより小型の浮遊性有孔虫化石の分析も可能になると期待される.そこで,平成24年度のからの繰越金を,この移転費用の一部として使用する. これ以外の経費について,当初の予定どおり,分析に要する実験器具類や,分析用のガス等に要する消耗品,茨城工業高等専門学校における分析や試料準備のために要する国内旅費,試料調整のための学生アルバイトへの謝金,成果発表のための経費等として使用予定である.
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