地質試料のAFM観察では表面に波状構造がみられた。この構造がαリコイルトラックによるものである可能性を吟味するため,現世の試料で観察したところ波状構造はなく,FTとは異なる深さ10nm程度の凹状の構造が存在していた。またこの波状構造は試料を1000度Cで加熱すると見られなくなった。これらの結果を受けて,本年度は10nm程度の凹状の構造の性質を調査した。まずこの凹みが測定のノイズやゴミではなく,安定的に存在しているかどうか調べた。時期を変えて同じ場所をAFMにより繰り返し画像を取得したところ,この凹構造は安定的に観察され,ノイズ等ではないことがわかった。しかし,画像取得の解像度によっては構造を見落とす事がある事も分かったため,表面構造の取得を最低でも0.016μm毎に行う必要があった。次にエッチングによってこの凹構造がどう変化するかを調べた。熱ルミネッセンス法で年代測定を行った白山火山から採取したジルコンで調べたところ,凹構造はエッチングによって観察表面での直径,深さ,個数ともに増大した。直径と深さは概ね線形の関係を示した。この凹みの数の面密度を計数する事もできた。しかし面密度は粒子の場所によって大きくばらついており,今後はウラン濃度,トリウム濃度と凹構造数の関係を調べるとともに,様々な既知年代の試料を用いて,この計数値が年代値を表すものかどうかさらに吟味する必要がある。最後に詳細に表面をみると10nm程の高さをもつ凸型の構造物も観察された。物性を見るPhaseモードによる画像を調べると,ゴミなどの付着物ではなくジルコンと物性のよく似たもので構成されていた。この凸構造はエッチングにより現れるので,今後さらに物性を調べて形成の理由を考察する必要がある。
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