研究課題/領域番号 |
24654177
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
遊佐 斉 独立行政法人物質・材料研究機構, 先端材料プロセスユニット, 主幹研究員 (10343865)
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キーワード | フラーレン / 超臨界流体 / 高圧 / カーボンナノボール / 水素 |
研究概要 |
水素分子の吸着・脱離に関する研究は、金属間化合物への吸蔵・放出という金属材料分野での研究、軽元素錯体水素化物からの脱水素反応を利用する研究が多い。しかしながら、金属間化合物は運搬効率の悪さや、高コストな金属資源を使用すること、また、軽元素錯体水素化物は脱水素化に伴い、構造も大きく変化してしまうため、可逆プロセスを考慮したサイクルを構築できない等の難点がある。本研究では、その可逆反応を構築しうる物質として、ナノ物質、C60 フラーレンに注目している。前年度は、水素化リチウムアルミニウムを水素供給源として、C60の水素化実験を試みたが、未知の副生成物が妨害因子となったことに加え、透過照明による観察が、アルミニウムの存在により不可能であったことなどが重なり、C60の水素化は解明できなかった。そこで、本年は、水素源を単体水素に変え、水素化をおこなった。実験は、ダイヤモンドアンビルセル装置を用い、出発試料はC60粉末を用い、水素源として水素流体を、高圧ガス充填装置により1500気圧で、タングステンガスケット中に試料と共に封入した。X線回折実験はSPring-8にておこない、加熱にはファイバーレーザーを用いた。およそ2GPaの高圧水素と共存した、C60の回折パターンと、アルコール混合媒体で加圧したものを比べると、すでに格子が膨らんでおり、水素が吸蔵されていることが確認できた。その後、レーザー加熱したところ、一部透明化し、C60H36で説明できるピークが出現した。減圧過程においても、透明化した試料は残存していたことから、水素化フラーレンの生成が2段階の過程を経て生成することが確認できた。 また、本年は、フラーレン同様、π共役系結合を持つ関連物質(Tetrathiazolylthiophene)について高圧実験を行うことにより、差応力がもたらすメカノクロイズムと静水圧の違いを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は水素源を単体水素にして水素化実験をおこない、C60フラーレンの水素化のその場観察に成功した。ただし、水素脱離実験については、放射光実験のマシンタイムが充分に確保できなかったこともあり、まだおこなっていない。また、昨年度に発見された、水素化フラーレンからのカーボンナノボールについて、フッ化フラーレンを使用した実験でも、ナノボールが生成することが明らかになった。これらの特許出願については順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
本年予定していた、500度程度の比較的低温での温度制御をおこなってのフラーレンの水素化反応の観察は、放射光実験時間が十分確保できなかった等の要因であまり進まなかった。本年は、その実験準備をおこなう。具体的には、ダイヤモンドアンビルの周りに、熱風吹きつけ型の装置を利用して、精密に温度制御をおこなう必要があると考えている。また、長時間の放射光実験時間を確保することが、近年来困難になっていることから、より均一なレーザー加熱場による実験を研究室で準備する。具体的には両面加熱型の光学系を導入し、さらに収差補正をおこなった観察系も構築する。これにより、不足しがちな放射光実験に極度に依存しない研究方法を模索する。また、研究分野の裾野を広げるために、研究の方向性をπ共役系物質一般への圧力応答性の解明という視点にも向ける。
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次年度の研究費の使用計画 |
軽元素系の実験であるため、研究の遂行にあたっては放射光によるX線回折実験が不可欠であるが、本年において、充分にその時間を確保することが困難であったため、研究を延長する必要が生じた。 本年度の研究費は、熱風吹きつけ型高温装置の準備をおこなうための経費、および両面加熱型レーザー加熱観察系の構築に用いる光学部品の購入にあてる。また、SPring-8のマシンタイムが充当された場合はその経費に、また、研究成果発表に関する経費も確保する。
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