研究概要 |
星間分子の織り成す「宇宙の化学反応」では、水素関連化合物: H2+, H3+, H5+やCH+, CH3+等がその化学反応の分岐点となるキー分子として知られている。しかし、これらの星間分子は地球上では不安定なイオン種であり、一般に通常の環境下での実験が困難である。一方で、天体望遠鏡観測技術や極低温科学技術の発展による精密測定も可能となっており、高精度な理論的研究が求められている。本研究では、シュレーディンガー方程式ならびに相対論ディラック方程式を正確に解く理論として定式化された理論的手法を用い、上述の星間分子種の超精密波動関数の計算を行った。特に、水素原子関連化合物では、軽い水素原子核の量子効果を無視することができないため、精密なNon-Born Oppenheimer(Non-BO)計算を行う必要がある。まず、最も簡単な水素分子イオン: H2+に対し精密なNon-BO計算を行い、電子励起、振動励起、回転励起、重水素置換同位体効果、に対応する波動関数を極めて高精度に求めた。特に、Non-BOレベルでの電子励起や回転励起状態の精密な理論研究はほとんど行われておらず、これらは観測及び実験のスペクトルと直接比較可能なデータベースとなり得る。Non-BO計算では、核と電子の運動がカップルするため、化学反応の理解に重要なポテンシャルカーブが損なわれるが、我々はNon-BO波動関数からポテンシャルカーブを求める手法を提案した。水素分子クラスター等の複雑なポテンシャル面への応用が期待できる。一方、H3+, H5+やCH+, CH3+等、その他の星間分子種の精密計算を行った。これらは、BO近似レベルでの計算ではあるが、既存の量子化学理論で得られる解より遥かに高精度な解を得ることができた。今後、極低温科学の実験家らとの共同により、様々な物性の理論的解釈と予測の研究に繋げていきたい。
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