研究課題/領域番号 |
24655001
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
秋山 公男 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (10167851)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 時間分解分光法 / 電子スピン分極 / 電荷輸送 / 磁場効果 |
研究概要 |
本申請研究は、分子スピンエレクトロニクス研究の基盤となる電子スピンコヒーレンスの高速検出手法の開発を行い、分子内の電子スピン系の動的挙動を解明する手法として確立することを目的として行う。このために、過渡的な磁気光学効果を観測する全光検出型電子スピン分光システムを組み上げて、光誘起電子移動反応初期過程で生成する分子内電荷分離系の電子スピンコヒーレンスの消長の観測と定量的な解析を進める。さらに、素子構造を持つ有機半導体薄膜系に展開し、電子スピンコヒーレンスに関する観測結果をもとに、スピン輸送あるいは電荷再結合過程でのスピン混合の寄与等について提案されているモデルの検証とその改良・確定することを目的として研究を進めた。 今年度の研究計画としては、定常状態でのFaraday Rotation(FR)測定装置を組み上げ、最終的に目的とする時間分解FR装置の検出系の性能確認を行うことを目指した。Probe光の安定性と観測される”信号の質”について検討し、研究目的の達成に十分な性能を持ちうるレーザー装置を確定した。これと並行して、1/2波長板、GLプリズム、Photodiodeは、基本的な光学ブリッジの構成して、このブリッジを用いた検出法の最適条件を決定した。最終的に、標準試料を用いて完成した定常状態FR測定装置の性能を確認した。さらに、既存のレーザーシステム(パルス色素レーザー)を転用することにより、pomp-probe法を用いた時間分解測定装置として組み上げるための予備的な実験を進めた。特に、励起とプローブレーザー間の同期制御系の最適化を行った。また、時間分解測定装置の性能確認に適当と考えられる光反応系の探索を、光誘起分子内及び分子間電荷分離反応系を中心に進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究の研究目的を達成するために、本年度の「研究実施計画」で2つの中心的な課題を提起した。それは、定常状態Faraday Rotation(FR)測定装置の組み上げと時間分解測定装置への展開を指向した周辺設備・技術の整備にあった。これらの課題は、おおむね当初の計画通りに進んでいる。具体的には、前者については、高感度高性能の定常状態でのFaraday Rotation測定装置を組み上げること、その結果を基に検出系の核心部分である光学ブリッジ(1/2波長板、GLプリズム、Photodiodeで構成される)の最適な実験配置を確定した。この検出系は、最終的に目的とする時間分解FR装置の検出系として組み込むことになるので、今後、必要となると考えられる改良に柔軟に対応できる体制を確立した。このために、外部静磁場との関係も含めて性能確認を行い、多様な実験配置での結果を整理した。また、後者については、時間分解FR装置の開発に向けた準備に着手し、pomp-probeレーザー間の同期と信号取り込み・処理系のsoftwareの開発も含めた作業を進めた。 同時に、試作装置の性能確認には、強く電子スピン分極した光反応系が好都合であるのでその探索を進めた。その中で、分子内電荷分離系に適当と思われる光反応系を見出したので、生成するラジカル対の電子スピン分極のスピン動力学的な解析を進めた。定常状態FR測定装置とパルスレーザーを組み合わせたシステムでは、スピン分極したラジカル対に起因すると期待される微弱な信号を得ている。しかしながら、過渡的なFR信号以外の相知的な要因を排除できていない。次年度に向けて、改善すべき問題点の絞り込みも系統的に進めているので、計画はおおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度において、定常状態FR法及び時間分解測定法について所要の成果を得ているので、研究計画に即し当初の研究目的を達成するための研究を推進する。時間分解FR法の電子スピン系の動力学を解析する新規手法として確立するために、装置の検出感度の改善、位相情報の抽出、時間分解能の改善等について検討を進める。一連の改良作業を経て組み上げた全光検出電子スピン分光法を用いて、従来のパルスEPR法では電子スピン相関に関する情報が抽出不可能な系への応用研究を進める。先ず、既に、時間分解EPR測定により、系の電子スピン動力学的な研究が完了している試料系を用いて、観測される時間分解FR信号のダイナミクスとの対応について研究する。さらに、電荷輸送系への応用の典型例として、電子受容体をDope したPolyvinylcarbazol薄膜中に生成する電子-正孔対を中心に進める。この系は、Dopeした電子受容体によりGMR効果が大きく変化するが、関与する電子-正孔対の電子スピン相関に関する情報を従来の分光手法では得ることが出来なかった。この系について、電子スピン相関時間・位相緩和時間を精度よく決定しGMR効果との対応について明らかにする。 当該研究期間で得られた研究成果を整理し、この新規手法が常磁性種の電子スピン検出のための有力な分光手法でとして位置づけられることを明らかにする。さらに、システムの時間分解能は原理的にはパルスレーザーのパルス幅で決まるので、現在のパルスレーザー技術の到達からすればフェムト秒域までの改良は容易に可能である。これらの可能性について検討するとともに、研究過程で明らかになった問題点を克服する展望について検討を進め、一連の研究を総括する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことにともない発生した未使用額であり、平成25年度請求額とあわせ、平成25年度の研究遂行に使用する予定である。
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