本研究では,数多くの分子やイオンが関わる相変化において時々刻々の変化を実験的に捉えることを目指している。そのためには,(a) 比較的ゆっくりした相変化を起こす試料系を見出すこと,(b) 現象を捉える適切な方法論の構築と微弱な信号を検知できる分解能と応答時間を有する装置の開発や改良することを目標とした。 (a) では,イオン液体の相挙動が最も合致した試料系であることが確認された。イオン液体の代表的なカチオンであるimidazolium 系に加えpyrrolidonium 系の相挙動を熱測定・Raman測定・NMR 緩和時間測定を系統的に行い,芳香族系と脂環族系という骨格の違いが相挙動に及ぼす影響を抽出した。特に,imidazolium 系の複数の試料ついて,結晶化に分~時間のオーダーのゆっくりした相変化を見出した。それらの結晶化の詳細を熱測定とNMR の緩和時間測定で観測し,昇温過程においてガラスのような固化状態から,一旦ソフト化が起こり,立体配座を変えながら結晶化していくことを発見した。これらは世界でも初めてと思われる現象の発見であり,imidazolium 系試料に普遍的な現象であることを確認した。 (a) の別の系は,金ナノ粒子の成長過程である。高分子水溶液中に分散した金クラスターを,高分子の相変化を利用してナノ粒子に成長させ,その時間変化を追跡することに成功した。 (b)については,低磁場NMR 装置におけるF(19)(質量数19のフッ素)用のプローブをメーカと共に開発し,イオン液体のアニオンの主な構成元素であるフッ素の緩和時間測定が可能としたので、イオン液体の代表的アニオンであるFSAイオンおよびNTf2イオンに適用した。従来行われてきたカチオンに加え,アニオンの動的挙動を組み合わせることにより,統一的にイオン液体の相変化のダイナミクスを議論することが可能となった。
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