研究課題/領域番号 |
24655005
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 毅 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10321986)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 量子動力学 / 粒子統計 / プロトン構造 |
研究概要 |
計算プログラムに関して以下のことを行った.計算のボトルネックは通常の電子状態計算と同様に2粒子積分部分である.計算時間の短縮化のため,既に提案してあった特異値分解を使ったクーロン核の数値積分アルゴリズムを,特異値分解の対称性を最大限利用することにより改良し,その計算ルーチンを新たに作成した.この計算ルーチンをこれまでに作成してあった電子ダイナミクス用のMCTDHFコードに組み込み,2粒子積分の計算が1.5~2倍程度高速化することを確認した.また,数値的な精度の改良を行った.すなわち,円筒対称性を持つ数値軌道関数の表現方法として,現行の電子ダイナミクス用のMCTDHFコードでは双変換法を用いているが,分子軸に最も近いグリッド(計算)点における軌道関数の数値微分の精度が運動エネルギー演算子行列のエルミート性の保持を左右する.エルミート性の保持は,実時間発展中の系の全エネルギーの保存や定常状態におけるビリアル比の精度にとって重要である.差分法を用いた数値微分に,原点補正を加え,これまでの3次差分から5次差分,あるいは9次差分を採用することによって,運動エネルギー項の正確な評価が可能となった.このことは,基底状態の全エネルギーやビリアル比を以前の計算結果と比較することで明らかとなった.また,ボゾンであるデューテロンの配置関数を生成するサブルーチンを新たに作成した. 理論の定式化に関して以下のことを行った.電子-デューテロン系分子に対する一般論構築の準備として,ボゾンであるデューテロンの配置関数を基底関数とした場合の一体場・二体場に対する行列要素を,時間依存変分法に基づいた定式化を簡明な形で表現するために導出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計算コードの高速化に関して,H24年度計画ではOpenMPを最大限利用するようにコードを改訂することを目標としたが,分子積分表現手法の高速化や運動エネルギー評価の精密化に取り組んだため,OpenMPによる計算時間の短縮の実現には至っていない. また,数値軌道の表現方法として,現行版の電子ダイナミクス用のコードでは双変換法をのみを用いているが,円筒座標系に特化した他の軌道関数の表現手法である有限要素法や既報文献で展開されている表現手法の実装による計算速度・精度の比較を行う事が出来なかった.しかし,上記の高速化・評価の精密化の成果により,数値軌道の表現方法として,双変換法を引き続き利用しても十分な速度と精度が期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
計算時間の短縮化に関して,既に作成した電子-プロトン系を扱うことのできるコードをもとにして,OpenMPを使った計算時間の短縮を図る.また,H24年度に求めたデューテロンの配置関数を基底関数とした場合の一体場・二体場に対する行列要素を使って,電子-デューテロン系分子に対する時間依存多配置波動関数理論の定式化を完成させる.さらに,電子-デューテロン系分子に対する計算コードを,既に作成した電子-プロトン系を扱うことのできる計算コードの中のフェルミ統計部分をボーズ統計に書き換えることによって,最小限の内容変更で新たに作成する.
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次年度の研究費の使用計画 |
開発する計算コードを並列計算で実行するために高性能なワークステーションを必要とする.また,本研究は,量子化学的な枠組みを借りた量子動力学研究の新たな試みであるので,物理学・量子化学関連の教科書を参照する必要がある. 国内学会(分子科学討論会・理論化学討論会) において成果発表およびプロトン移動反応に関する情報の収集を行う.強光子場科学に関しては,毎年レベルの高い国際シンポジウムが開催されているので,その場において,成果発表および情報の収集を行う.
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