研究課題/領域番号 |
24655005
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 毅 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10321986)
|
キーワード | 量子動力学 / 粒子統計 / プロトン構造 |
研究概要 |
本研究では,ボーズ粒子であるデューテロンを軌道関数を使って取り扱うことのできる,ボーズ粒子を含む分子に対する時間依存多配置波動関数理論を提案している. 電子,デューテロンの運動を記述するスピン軌道関数,および重い核の運動を記述するCI-ヴェクトルに対する運動方程式は,時間依存の変分原理に従って導出できる. 過去の研究例では,第二量子化法を使った定式化によって,フェルミ粒子系とボーズ粒子系を区別なく統一的に取り扱うことが出来るという点が強調されていたが,本研究では逆に,両者の相違点を明確化した. デューテロンのスピン軌道の運動方程式を求める際,一体相互作用 h,およびCoulomb相互作用 W に対する行列要素が必要となる.本研究では,数表現された permanent |Φ> = |n1, n2, n3, ...> を使った場合の,0-,1-,2-粒子置換配置に対する行列要素の明示的な表現を計算した.その結果,フェルミ粒子系と比較して,質的に異なる行列要素を与えるのは主として W であることが明らかとなった.例えば,平均場近似に対応する行列要素においては,交換積分の符号はフェルミ粒子の場合とは逆になる.さらに,一つのスピン軌道に複数の粒子が配置される(nk >= 2) とフェルミ粒子系では見られなかった項が出現する.また,2-粒子置換配置に対する行列要素にはパウリの禁制則が成立していなことに起源を持つ項が現れることが分かった.また,前年度に計算した行列要素の組には,本来含まれているべき行列要素が不足していることが明らかとなり,それらの寄与も新たに計算した. 軌道に対する運動方程式は,上記の明示的に求められた行列要素を使って,時間依存の Dirac-Frenkel 変分原理を評価することで定式化した.その結果は,第7回分子科学討論会にて発表した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
軌道関数の運動方程式の定式化を,既に定式化済みのフェルミ粒子系の場合と比較しながら行ってきたが,本研究で扱ったボゾン系の運動方程式を導く際に,フェルミ粒子系の場合との比較ができない項が一部現れてくることを見出した.この項は,粒子統計の差に基づくものではなく,以前のフェルミ系における運動方程式の定式化の際に見落とされていた項であることが最終的に判明した.数値的な計算結果を大きく変更するとは考えられない寄与であるが,完全のため,以前のフェルミ粒子系における運動方程式も一部改編する作業が加わった.
|
今後の研究の推進方策 |
既存の電子-プロトン系を扱うことのできるコードをもとにして,電子-ボーズ系の計算コードの完成を急ぐ.その際,今回新たに見出された行列要素からの寄与を適切に組み込み,電子-プロトン系,電子-ボーズ系の計算コードを完全なものとする.基底状態に対する数値計算を行い,新たな行列要素からの寄与が無視できることを電子-プロトン系において確認する.その上で,電子-ボーズ系の基底状態の計算を行い,基底状態におけるデューテロン構造を計算する.プロトン構造とデューテロン構造を比較することで,基底状態における粒子統計の差異が幾何学的構造に反映されているのかを明らかにする.その後,強レーザー場との相互作用を取り入れた実時間計算を行い,超高速水素移動におけるプロトン構造変化とデューテロン構造変化の違いを明らかにする.これらの計算は,質量の違いに起因する幾何学的構造の変化をなくすために,デューテロンの質量をプロトン質量と同一にして数値計算を行う.
|
次年度の研究費の使用計画 |
H25年度に高性能ワークステーションを購入予定であったが,プログラム作成が遅れたため,ワークステーションの購入をH26年度に変更したため,未使用額が生じた. 未使用額はワークステーションの購入経費に充てる.H26年度初旬にワークステーションを購入し,作成したプログラムを実行する.
|