研究課題/領域番号 |
24655012
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉田 弘幸 京都大学, 化学研究所, 助教 (00283664)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / 量子ドット / 電子準位 / 光電子収量分光法 / 無機・有機界面 |
研究概要 |
本研究では、有機半導体中に分散したナノ粒子の電子準位を決定する新しい実験手法を開発する。電子準位決定のもっとも有力な実験法である光電子分光法は、検出深さが1ナノメートル程度と小さいため、ナノ粒子の保護基や有機半導体からの信号に妨害されやすく、また試料帯電の影響を受けやすいため、ナノ粒子からの信号を検出するのが困難であった。本研究では、試料帯電の影響を受けにくく、検出深さの大きな光電子収量法に着目した。この測定手法に、ナノ粒子からの弱い信号を選択的に検出する特別な工夫をすることで、ナノ粒子の電子準位を決定する。 平成24年度は、ナノ粒子測定のための光電子収量分光装置の設計・製作を行った。この装置は、重水素ランプで発生した真空紫外光を回折格子で単色化し、試料表面に集光する。試料表面から放出された電子を正電圧を印加した電極で集め、光の波長の関数として光電流を測定する。真空紫外光は大気中の酸素によって吸収されるため、分光器と集光装置内部は窒素置換し、試料槽は高真空に排気できるように設計した。 まず、真空紫外光源の性能を確かめるため、真空紫外光をサリチル酸ナトリウム膜で可視光に変換してホトマルで検出した。この結果、400-120 nmの波長領域で減衰なく試料に到達することを確認した。一方、試料測定のための真空槽は、試料表面の汚染を防ぐためオイルフリーの高真空にした。現在、試料の移送機構、電極の製作を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、平成24年度中に光電子収量分光装置を完成させる予定であった。この装置は、真空紫外単色光源と真空装置、信号検出部分からなる。真空紫外単色光源については予定通り稼働した。しかし、真空装置にトラブルがあり、装置開発が予定より遅れることになった。 本研究では、限られた予算で装置の製作を行うため、既存の真空槽や真空部品を活用している。開発が遅れた原因は、真空槽に真空漏れがあり漏れ個所の特定と補修に手間取ったこと、既存の真空槽に合うように試料ホルダー、試料の受け渡し機構を設計・製作するのに時間がかかっていることが主な原因である。 今後、不要な機能の見直しを行い、装置構成を簡略化することで、使用する部品を減らし、経費の削減と納期の短縮に努める。また、購入前に製品デモなどを活用し、起こりうるトラブルを事前予測して対策を立てることで、でできるだけ早く装置を完成させるよう努力する。
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今後の研究の推進方策 |
まず、24年度に達成する予定であった光電子収量分光装置を半年以内に完成させる。金や芳香族炭化水素などの標準的な物質について測定を行い、装置性能を確かめる。特に、信号強度や信号対雑音比(SN比)が十分取れるように、光路や電極形状などの調整を行い、装置を完成させる。 今年度後半には、この装置を使い、実際にナノ粒子の測定を行って、信号強度、試料帯電の影響などの問題点などを明確にする。これに基づいて、以下の方針を軸にナノ粒子からの信号を効率よく測定するための具体的な方法を検討する。 (1) レーザー照射によりナノ粒子だけを選択的に励起し、2光子励起スペクトルを観測する。半導体ナノ粒子は、高い光吸収効率を示すので、ナノ粒子の吸収に合わせたレーザー光を試料に照射し、レーザー光に変調をかけ信号をロックイン検出することで、レーザー励起の有無による微小な信号変化として感度良く検出することを試みる。 (2) ナノ粒子の濃度を変えながら測定を行い、スペクトルを多変量解析の手法により解析する。 ナノ粒子からの信号強度が系統的に変化した一連のスペクトルを測定し、主成分分析法などの多変量解析の手法により信号分離する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初、平成24年度中を予定していた光電子収量分光装置の完成が遅れたため、次年度使用研究費が生じた。この研究費は、当初の予定通り、装置の製作に充当する。特に、平成24年度に購入が間に合わなかった真空部品の一部と、電源、電流アンプなどの測定器、電子部品に主に使用する。25年度に請求する予算は、予定通り、装置の調整・改良、レーザー購入、試料調製に充てる。
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