研究課題/領域番号 |
24655014
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大西 洋 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20213803)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 光触媒 / 共鳴ラマン分光 / 電子励起状態 / 格子振動 / 励起電子 / 正孔 / 酸化チタン / タンタル酸ナトリウム |
研究概要 |
太陽光による水素燃料生成を目標として、可視光で動作する光触媒材料の探索がすすめられている。物質変換効率は10年前には考えられなかったほど高い水準に達したが、実用化にはさらなる高機能化が必要である。光触媒は(1)結晶内部で吸収した光エネルギーを(2)励起キャリア(電子と正孔)に変えて表面へ伝達し(3)反応中心での物質変換に利用する。異なる役割を果たす部位(サイト)の集積体である光触媒は無機物質を使って人工的に構築した複雑系である。その動作機構の理解は基礎科学の重要課題であると同時に、光触媒開発を支える知的基盤を提供する意義をもつ。本研究では、複雑系の典型であるタンパクの研究に成功をおさめた共鳴ラマン分光を、電子励起状態にある光触媒研究に転用することをめざす。基底状態にある可視光動作光触媒に数mol%含まれる可視光吸収サイトの共鳴ラマンスペクトル測定には本研究以前に成功しており、光触媒の結晶格子にトラップされた励起電子と正孔の振動スペクトルを検出することが本研究の目標である。 第一年次である2012年度には、He-Cdレーザーを励起源とするラマン分光器(現有)を固体粉末である光触媒計測に最適化するよう改造して、基底状態にあるTiO2単結晶・SrTiO3単結晶・触媒学会から提供をうけた9種の参照光触媒・窒素ドープおよび硫黄ドープ酸化チタン光触媒(市販品)を計測した。また、紫外光で動作する高効率水素生成光触媒であるSrをドープしたNaTaO3を計測して、過酸化物アニオンに帰属しうる860 cm-1の振動バンドを見いだす予想外の結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子励起状態にある光触媒のラマンスペクトルを計測するには十分良好な信号/雑音比を実現することが必要である。第一年次にさまざまな光触媒の基底状態を計測して、高い信号/雑音比を実現するためのノウハウを収集できた。さらに、当初計画になかったがSrをドープしたNaTaO3光触媒を計測したところ、Srドープ量に応じて過酸化物アニオンに帰属できる振動バンドが発生する予想外の結果を得た。ドーパント偏積による微粒子表面の構造変化に関する情報を得る可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
第二年次となる2013年度には(2)ラマンスペクトル計測にSEMによる粒子形状観察を併用して、SrドープNaTaO3光触媒の微視的構造変化を明らかにする。また(2)研究計画に沿って励起光照射下で酸化チタン光触媒のラマンスペクトルを計測して、結晶格子にトラップされた励起電子と正孔の振動スペクトル検出をめざす。
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次年度の研究費の使用計画 |
励起光照射下で微量発生する励起電子と正孔を観測するために真空・酸素ガス中・アルコール蒸気中などでの測定を可能にするガスセルを製作する。それを用いて研究計画に沿って電子励起状態にあるTiO2光触媒のラマンスペクトルを計測する。また、SrドープNaTaO3光触媒に関してラマン分光と走査電子顕微鏡による粒子形状観察(有償)を進めてドーパント偏積による表面構造変化の微視的理解を進める。これらの測定結果を光触媒研究者・分光学研究者・表面科学研究者とともに考察するために国内および国際学会で積極的に成果発表するための経費に使用する。SrドープNaTaO3光触媒に関する研究は、第一年次の研究を進めるなかで遭遇した予想外の測定結果に端を発する研究項目であるため当初計画に含まれていない。第一年次に整備予定であったターボ分子真空ポンプは中古品の無償譲渡を受けることができたため、その購入に充てる予定の経費を第二年次に繰越してSrドープNaTaO3光触媒の研究に使用する。
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