研究課題/領域番号 |
24655014
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大西 洋 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20213803)
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キーワード | 光触媒 / 電子励起状態 / 共鳴ラマン散乱 / 格子振動 / 酸化チタン / タンタル酸ナトリウム / ペロブスカイト / 電子-正孔再結合 |
研究概要 |
太陽光による水素燃料生成を目標として、可視光で動作する光触媒材料の探索がすすめられている。物質変換効率は10年前には考えられなかったほど高い水準に達したが、実用化にはさらなる高機能化が必要である。光触媒は(1)結晶内部で吸収した光エネルギーを(2)励起キャリア(電子と正孔)に変えて表面へ伝達し(3)反応中心での物質変換に利用する。異なる役割を果たす部分構造の集積体である光触媒は無機物質を使って人工的に構築した複雑系である。その動作機構の理解は基礎科学の重要課題であると同時に、光触媒開発を支える知的基盤を提供する意義をもつ。本研究では、複雑系の典型であるタンパクの研究に成功をおさめたラマン分光を電子励起状態にある光触媒研究に転用することをめざした。これまでにTiO2単結晶・SrTiO3単結晶・触媒学会から提供をうけた9種の参照光触媒・窒素ドープおよび硫黄ドープ酸化チタン光触媒(市販品)を計測したが、励起状態の格子振動に帰属できる信号を得ることはできていない。測定環境を還元的あるいは酸化的雰囲気に片寄せて、励起電子あるいは正孔濃度を増やした測定をおこなって検出に努めている。 同時並列に実施したSrドープNaTaO3(紫外光で動作する高効率水素生成光触媒)のラマン分光では予想外の重要な成果をあげた。既報にしたがって固相合成した光触媒は860 cm-1にドーパントに由来する強いラマンバンドを与えた。従来研究によれば、B-siteを異元素で置換したペロブスカイト化合物は対称性による禁制が解けて800~900 cm-1に強いラマンバンドを与える。よってペロブスカイト構造をもつNaTaO3にドープしたSr2+は、これまで想定されてきたNa+(A-siteカチオン)ではなく、Ta5+を置換することが明らかとなった。一方、水熱合成によって調製したSrドープNaTaO3は860 cm-1ラマンバンドを与えず、想定どおりSr2+がNa+を置換することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の主目標にかかげた電子励起状態にある光触媒の共鳴ラマン測定にはいまだ成功しておらず研究計画より遅れている。一方、電子基底状態にあるSrドープNaTaO3光触媒については、予想外の測定結果を得た。Sr2+ドーパントがNaTaO3のB-siteを置換することは、ドーパント添加によって電子-正孔再結合を抑制するメカニズム解明の基礎となる知見である。これらを総合して「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
電子励起状態にある光触媒からラマン信号を得るためには、測定環境を還元的あるいは酸化的雰囲気に片寄せて、励起電子あるいは正孔濃度を増やした測定を継続する。SrドープNaTaO3光触媒については、固相合成したB-site置換体と水熱合成したA-site置換体を時間分解赤外吸収分光で計測して、電子-正孔再結合反応速度と置換サイトの関係を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究で購入する予定であった真空装置の一部部品として、他の研究プロジェクトで使用を終了した物品を充てることができたため、その分の消耗品費が未使用となった。 本研究で得た成果を広く世界に発信するために、2014年6月(京都)と11月(兵庫)でおこなわれる国際会議で発表するための経費に使用する。発表に必要となる補完的な追加データを取得するために博士後期大学院生を学生研究支援員として雇用し謝金を支給する。
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