研究課題/領域番号 |
24655016
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
河本 敏郎 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70192573)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スピン / レーザー |
研究概要 |
電子スピンの状態を偏光の変化として光学的に検出する高精度・高感度な検出器ポラリメーターを製作した。プローブ光を偏光ビームスプリッターで分けて2つのフォトダイオードで受け,それらの光電流の差をとることにより,微小ファラデー回転角の検出が可能になる。ポラリメーターにより電子スピンの磁化の大きさと向きに関する情報が得られる。 現有のパルスレーザーを利用した2波長可変ポンプ-プローブ光源を構築し,光学ディレイラインを組んでプローブ光を遅延させて,時間分解能100フェムト秒のスピン制御検出システムを製作した。ポンプ光の偏光を光弾性変調器でスイッチし,ロックインアンプを用いた高感度な量子ビート検出を可能にした。 可視領域の吸収帯が大きな磁気円偏光二色性をもつことが知られている結晶中の希土類イオンにおいて,円偏光のパルス励起と円偏光二色性を利用して基底状態のスピン偏極(磁化)を生成し,横磁場中のスピンのラーモア歳差運動による量子ビート信号を時間領域で観測した。また,不均一広がりで磁化が消失した後,制御光を入射させてスピンを180度回転させる位相反転操作を行うことによってスピンエコー信号を観測し,一度失われたスピンコヒーレンスが回復できることを示した。 非線形光学結晶BBOを用いて,発光強度を高感度かつ超高速時間分解検出できるフェムト秒和周波発生検出装置の製作を行った。試料からの発光を短焦点のレンズで集光し,BBO結晶上で波長800nm,パルス幅150fsのゲート光と空間的に重ねた。結晶を並進・回転微動台に設置して位相整合条件に設定し,和周波発生光を光電子増倍管で検出した。時間分解能はゲートパルスのパルス幅のみで決まる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2波長同時発振フェムト秒レーザーとポンプ-プローブ偏光分光法を用いたフェムト秒パルス励起超高速磁気共鳴システムを製作した。スピンの光学的生成,制御,および検出の予備実験として,結晶中希土類イオンにおけるスピンのコヒーレント光制御の実験を行った結果,基底状態の量子ビート信号を観測することができた。また,一度失われたスピンコヒーレンスを回復するスピンエコー信号の観測に成功した。この結果は,固体中のスピン系において光誘起スピンエコーを観測した初めての例である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は予備実験として基底状態の量子ビートを観測したが,今後は励起スピン系において和周波発生を用いた量子ビート信号の観測を試みる。 現有のフェムト秒再生増幅装置を使用してフェムト秒光パルス励起・和周波検出量子ビート分光装置を製作する。800nmのレーザー光を2つに分け,ポンプ光とゲート光にする。ポンプ光は非線形光学結晶で第2高調波400nmに波長変換した後,光弾性変調器,波長板,偏光子でオンオフし,ロックインアンプを用いた高感度検出を行う。また,ゲート光の光遅延制御を行う自動制御処理システムを製作する。 微弱な量子ビート信号を検出するためには,強いポンプ光とゲート光をカットして和周波光のみを検出しなくてはいけないが,現在は十分なカットには至っていない。ガラスフィルターに加えて,遷移金属錯体イオンの溶液フィルターを組み合わすことによって,和周波波長の分離の改善をはかりたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定では,今年度は予備実験だけではなく,励起スピン系用の和周波検出量子ビート分光装置の製作を進める計画であった。ところが,予備実験において,固体スピン系の量子ビート信号の観測だけでなく,スピンエコー信号の観測にまで進展したため,和周波検出量子ビート分光装置の製作およびそれに必要な物品の購入は次年度に先送りすることとなった。
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