研究課題/領域番号 |
24655016
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
河本 敏郎 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70192573)
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キーワード | スピン / レーザー |
研究概要 |
初年度は予備実験として基底状態の量子ビートを観測したが,今年度は励起スピン系において和周波発生を用いた発光強度の高速測定を行い,高速スピン・格子緩和と量子ビート信号の観測を試みた。 現有のフェムト秒再生増幅装置を使用してフェムト秒光パルス励起・和周波検出量子ビート分光装置を製作した。800nmのレーザー光を2つに分け,ポンプ光とゲート光にする。ポンプ光は非線形光学結晶で第2高調波400nmに波長変換した後,光弾性変調器,波長板,偏光子でオンオフし,ロックインアンプを用いた高感度検出を行う。強いポンプ光とゲート光から微弱な和周波光を分離するために,ガラスフィルターに加えて,遷移金属錯体イオンの溶液フィルターを組み合わすことによって,信号検出感度を改善することができた。 有機EL材料としても知られる遷移金属錯体Ru(bpy)3において,励起後のりん光に対してフェムト秒パルスレーザーと和周波発生法を用いたピコ秒領域の超高速時間分解発光測定を行い,励起三重項状態における超高速スピンダイナミクスを明らかにした。振動緩和に伴う10ピコ秒程度の寿命をもつ減衰成分が観測された。また,100ピコ秒領域においてスピン格子緩和による減衰成分が観測された。スピン格子緩和はこれまで緩和時間が長い8K以下の低温領域でしか観測されていなかったが,本研究では数10~100Kに及ぶ高温側の温度領域においてピコ秒領域のスピン格子緩和を観測することができた。 マルチフェロイック物質である酸化銅(CuO)において,テラヘルツ領域のスピンの量子ビート信号を観測した。また,電気磁気効果をもつことで注目されている反強磁性体酸化クロム(Cr2O3)において,~0.1THzと~0.3THの振動成分をもつ量子ビート信号が観測された。この信号の起源は現在のところ不明である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,和周波発生を用いた発光強度の高速測定装置を製作し,遷移金属錯体の励起三重項状態における高速スピン・格子緩和の観測に成功した。エネルギー準位構造を反映する量子ビート信号の観測も試みたが,量子ビート信号の観測は確認できていない。 マルチフェロイック物質の酸化銅と反強磁性体の酸化クロムにおいて興味ある量子ビート信号を観測した。酸化クロムにおける信号発現メカニズムの解明は今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
励起三重項状態における量子ビート信号の観測を実現するために,光励起下におけるテラヘルツ時間領域分光法を適用して超高速磁気共鳴信号を得ることを考える。また,テラヘルツパルス励起後の和周波光の強度変化として量子ビート信号を観測することも試みる。 電気磁気効果をもつ反強磁性体酸化クロムにおいて興味ある量子ビート信号が観測されたが,この信号の起源は現在のところ解明できていない。磁場や電場を印加することによって量子ビート信号がどのような振る舞いをするか調べることによって,この信号の物理学的起源を解明していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,招待講演の依頼を受けた2つを含めて,3つの国際学会に出席して研究発表を行うことになったため,参加登録料と旅費の支出が必要となった。 下記の3つの国際学会の参加登録料と旅費に使用する。 ・AnalytiX 2014 (Dalian, April 2014) (招待講演) ・EMN Summer Meeting (Cancun, June 2014) (招待講演) ・UP 2014 (Okinawa, July 2014)
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