研究実績の概要 |
前年度は,和周波発生を用いた発光強度の高速測定装置を製作し,遷移金属錯体の励起三重項状態における高速スピン・格子緩和の観測を行った。引き続き,エネルギー準位構造を反映する量子ビート信号の観測も試みたが,量子ビート信号の観測は確認できなかった。 電気磁気効果を示す反強磁性体として興味をもたれている酸化クロム(Cr2O3)単結晶において,前年度は格子歪み信号のテラヘルツ量子ビート信号を観測したが,今年度は格子歪み信号の緩和速度が,温度の上昇とともにネール温度(TN=307K)に向かって発散する振る舞いを観測した。また,ファラデー回転を用いた電場誘起磁化の観測を行った。この信号は低温側で現れるが、ネール温度近傍で減少した。電場誘起磁化の立ち上がりを測定した結果、磁化の立ち上がりは電場に追いついておらず、100ns程度遅れていることが明らかになった。観測された電場誘起磁化と磁気誘起格子緩和の現象は、酸化クロムの格子とスピンが電気分極を介して連動していることを示しており、電気磁気効果をもつ物質特有のダイナミクスであると考えられる。 2つの転移点(TN1=213K, TN2=230K)をもち,マルチフェロイック物質である酸化銅(CuO)単結晶において,超短パルスレーザーとポンプ-プローブ法を用いた反射による偏光分光の実験を行った。直線偏光のポンプ光により生成された光誘起格子歪みの緩和の様子を観測して緩和時間の温度依存性を求めた結果,TN1では転移点に向かって緩和時間が短くなっていく振る舞い,TN2では逆に転移点に向かって緩和時間が長くなっていく振る舞いが観測された。この結果は,TN1とTN2の相転移は異なるの機構をもち,TN1では変位型の相転移,TN2では秩序・無秩序型の相転移が起こっている可能性を示唆している。
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