研究課題/領域番号 |
24655021
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
御園 雅俊 福岡大学, 理学部, 教授 (40314471)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 光周波数コム / 高分解能分光 |
研究概要 |
分子スペクトルは広い波長領域にわたって複雑なスペクトルを持つため、その精密計測には、高分解能、高周波数精度、広波長範囲で測定可能な分光システムの開発が必要である。本研究では光周波数コムを用いて、これらの要求を満たす超高分解能分光システムを製作した。さらに、ヨウ素分子の超微細構造スペクトルを広い波長領域にわたって測定し、超微細構造定数の振動状態への依存性を検討した。 製作した分光システムは、色素レーザーを分光光源としたヨウ素分子の飽和吸収分光システムと、光周波数コムによる光源の周波数校正システムからなる。光源の色素レーザーは、半値半幅200 kHz 以下の狭い線幅を持ち、今回使用した色素では560 – 620 nm の波長範囲で発振可能である。光周波数コムとしては、モードロックTi:Sapphire レーザーを用いた。このモード間隔周波数とオフセット周波数をGPS 衛星からの基準信号にロックすることで、高い周波数精度が得られた。周波数校正システムでは、2 つのレーザーのビート信号と、バンドパスフィルターを利用した簡単な構成によって周波数マーカーを生成した。この方法によって、掃引する色素レーザーの周波数を容易に、高い精度で決定することが可能となった。 この分光システムを用いて、570.1 nmから612.0 nmまで、周波数にして約36 THz におよぶ範囲のスペクトルを測定し、不確かさおよそ100 kHz で超微細構造スペクトルの絶対周波数を決定した。さらに、各遷移の超微細構造成分の周波数差から、超微細構造相互作用を表す4つの超微細構造定数を求め、振動状態への依存性について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度においては光周波数コムと単一モード色素レーザーを組み合わせた高分解能レーザー分光システムを組み上げた。当初計画では、両レーザー間で生じるビート測定上の問題を解決するため、音響光学変調器を利用した周波数シフトシステムを組み込む予定であった。 実際には、音響光学変調器を利用するシステムの開発に先立ち、これを使用しない、より安価で簡便な分光システムの開発を行った。これは、2つのバンドパスフィルターと包絡線検波器とからなるものである。平成24年度においては、当該装置を組み上げたうえ、この装置をヨウ素分子の飽和吸収スペクトルの測定に適用した。ヨウ素分子の高分解能分光への適用は平成25年度に予定していたものであり、この点に関しては予定を前倒しして行ったものである。 以上述べたように、音響光学変調器を利用したシステムの開発を延期した一方で、バンドパスフィルター等を利用する新奇なシステムの開発を行い、さらにヨウ素分子の高分解能分光に適用して実証実験を行った。これにより、当初計画よりも内容の充実した成果を上げることに成功したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
光周波数コムと単一モード色素レーザーを使用したシステムの開発を継続する。平成25年度は、音響光学変調器を利用した周波数決定システムの開発を行う。 光周波数コムと色素レーザーのあいだのビート周波数を測定する際、色素レーザー光の周波数によってはビート周波数を測定することができないため、音響光学周波数シフターで色素レーザー光の周波数をシフトさせ、測定可能な範囲に調整する必要がある。この周波数シフト量も精確な値が必要なので、音響光学周波数シフターはGPS受信機からの信号を基準として動作させる。 このシステムをヨウ素分子の飽和吸収分光に適用する。得られた結果と、平成24年度に開発したシステムを利用して得られた結果とを比較し、新たに開発したシステムの有用性の検証を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に音響光学変調器を利用した実験を行わなかったため、この購入に予定していた金額(約30万円)の剰余が生じた。一方で、ヨウ素分子の高分解能分光を前倒しして行ったため、このために必要な光学部品等を購入する必要が生じた。繰越金89,307円はこの差額に当たる。 平成25年度の予算は、音響光学変調器のほか、関連する光学部品・電子部品等の購入に充てる。また、これまでに挙げた成果の発表や、平成25年度の進捗についての中間報告など、印刷費や、積極的に学会発表を行うための旅費に充てる。
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