化学反応素過程の基礎研究、環境・生命科学などへの応用研究に関連して、多原子分子の超高分解能レーザー分光による精密計測の重要性が高まっている。多原子分子の電子励起状態間の相互作用や解離のダイナミクスは、励起準位の微小なシフトや広がり、分裂等として現れるため、超高分解能レーザー分光によってこれらを精密に計測する必要がある。 本研究では、この目的のために、サブMHzの高分解能、連続発振で数100 mW以上の高光出力、可視全域から近赤外にわたる広波長域の3項目を満たすレーザー分光計測システムを、光周波数コムと狭線幅色素レーザーを組み合わせて構築した。さらに、実際に多原子分子の超高分解能分光計測を行って有用性を実証した。 超短パルスレーザーを、可視から近赤外にわたる波長域を持つ光周波数コムとして利用した。これを、GPS衛星に搭載されたCs原子時計からの基準信号にロックすることにより、安定な周波数の目盛を得た。分光光源としては、連続発振の狭線幅色素レーザーを用いた。これらの組み合わせによって、広い波長域で使用可能な、高分解能かつ高出力な分光計測システムを実現した。とくに、色素レーザーと光周波数コムのビートから周波数マーカーを生成する方法と、ビート周波数を一定に保つことで色素レーザー周波数のゆらぎの情報も得る方法の2つのシステムを開発した。 このシステムを用いて、ヨウ素分子およびナフタレンの電子・振動・回転遷移を測定した。分解能は約100kHz、不確かさは数10kHz程度であり、従来と比較して2桁程度の改善を行うことに成功した。
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