研究課題/領域番号 |
24655023
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研究機関 | 特定非営利活動法人量子化学研究協会 |
研究代表者 |
黒川 悠索 特定非営利活動法人量子化学研究協会, その他部局等, 研究員 (30590731)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ディラック方程式 / Free Complement法 / 正確な解法 |
研究概要 |
ディラック方程式(DE)は、原子・分子の状態を記述する相対論的な基礎方程式であるが、相対論特有の陽電子状態が方程式に含まれ、シュレーディンガー方程式以上に複雑な方程式である。水素型原子に対するDEは4成分あるが、これから陽電子状態を見かけ上取り除き(不顕化)、1成分だけの方程式に厳密に変換した方程式はこれまで知られていたが、その厳密解法は知られていなかった。本研究では、シュレーディンガー方程式の正確な解法として提案されたFree Complement(FC)法を、この非顕化されたDEに適用しても正確に解けることを示した。また、DEは陽電子状態に由来して数値的な不安定さが生じることが知られているが、本手法を用いることで変分崩壊することなく安定的に解を求めることができた。励起状態の解も基底状態と同時に求めることができ、安定的に求めることができた。 次に、二核分子である水素分子イオンについて検討した。水素原子とはポテンシャル項が異なるが、陽電子成分を不顕化することができ、2成分だけの方程式を導出することができた。そして、FC法を用いることで水素分子イオンに対するDEの解を正確に求めることができた。この時、従来用いられてきた関数形とは異なる新しい関数がFC法によって自動的に生成された。 相対論において粒子が衝突する領域(カスプ領域)における粒子の振舞が重要であることが知られているが、本年度は、非相対論の場合におけるカスプ領域での粒子の振舞について詳細に検討した。 次に、2電子系ディラック-クーロン方程式(DCE)について検討した。この方程式は16成分からなる方程式であるが、陽電子状態由来の項を不顕化することで4成分から成る方程式に低減することができた。この方程式を解くことはまだ成功していないので、今後この方程式を正確に解くこと、さらには3電子以上のDCEについても正確な解法を探求したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、水素原子、水素分子イオンなどの1電子系ディラック方程式を不顕化し正確に解くこと、及び、2電子系ディラック方程式を不顕化し、その解を求めることが当初の計画である。前者については概ね順調に進展しており、後者については、すでに不顕化することはできており、なお現在進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
2電子系以上のディラック方程式について、陽電子成分が不顕化された方程式の導出を行う。そしてFree Complement法を用いてその方程式を正確に解く。この時、積分法を適用できれば積分を行い、もし適用が困難であるならば、LSE(Local Schroedinger Equation)法を用いる。特に、前年度において、積分計算部分に非常に時間がかかった水素分子イオンについては、積分法の改良を行い、計算時間の短縮をめざしたい。相対論的ディラック方程式においては、粒子が衝突する領域(カスプ領域)の振舞いが非相対論とは大きく異なることが知られている(mild singularity)。本年度は相対論的な場合におけるカスプ付近での粒子の振舞についても検討を行う予定である。これらの研究成果は適宜学会及び論文にて発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまで研究実施場所として京大桂ベンチャープラザを借りてきたが、本年度より賃貸料の支払いが必要となるので、その費用のうち分担分に支出する。また、計算を行うために用いるワークステーションの電気代及びその使用に係る費用についても支出する予定である。その他、研究を遂行するうえで必要となる経費(印刷費、文房具等の物品費、学会等への参加費等、旅費等、講演会の謝礼等、論文の投稿費用等)にも支出する予定である。
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