研究概要 |
相対論的量子力学の基礎方程式であるディラック方程式(DE)は、例えば水素型原子の場合4成分から成る方程式である。4成分のうち陽電子状態を見かけ上取り除き(不顕化)、電子状態だけの方程式に変換するとその複雑さは低減される。我々は、シュレーディンガー方程式の正確な解法として提案されたFree Complement(FC)法を、この不顕化されたDEに適用した。 まずは水素型原子において核電荷がZ=1,26,90の時に不顕化された方程式を解いた。すると変分崩壊することなく安定的に基底状態・励起状態ともに求めることに成功した。この時核電荷が大きくなるにつれて収束が遅くなる現象が見られた。これは用いた波動関数が、核近傍における発散状態(mild singularity)を正しく表現できていないことに起因すると考えられる。次に二核分子である水素分子イオンについて検討した。この系においても、陽電子成分を不顕化することができ、2成分だけの方程式を導出することができた。そして、FC 法を適用すると、従来用いられてきた関数形とは異なる関数形が生成された。しかし、その収束スピードは非常に遅い。これもmild singularityに起因すると考えた。これまでの研究から、速い収束を得るためには粒子が衝突する領域(カスプ領域)における粒子の振舞が重要であることが明らかとなった。そこで、まずは非相対論の場合におけるカスプ領域での粒子の振舞について検討した。そしてカスプ領域において波動関数が満たすべき必要条件として一般化近接条件の導出に成功した。また、1粒子系における相対論のカスプ条件の導出も行った。不顕化されたDEからは独立な1つの条件式が得られた。これは不顕化によるメリットである。最後に2電子系ディラック-クーロン方程式について検討した。この方程式は16成分から成る。陽電子状態由来の項を不顕化することで、4成分から成る方程式にまで低減することができた。
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