研究概要 |
フラーレンC60の内部は球状のπ電子系に取り囲まれた内径約3.7Åの特異な空間であり、H2, H2O, CO等の小分子が内包されるのに最適な大きさである。これまで、He, Ne等の希ガス、あるいはN, P単原子が極めて低収率(0.1-0.01%)で、極めて過酷な条件下(3000気圧・650℃、あるいはイオンビーム照射)でのみC60内部に挿入可能なことが知られている。しかし、これらの内包フラーレン類の単離精製は非常に困難であり、物性研究はほとんどなされていない。また、金属イオンを内包したフラーレンは、多大な労力を伴う分離精製の後にほんの微少量が得られるのみである。このように、フラーレンの内部空間に合理的にアクセスし、小分子を内部に導入する手法自体が欠如していたため、フラーレンのπ電子系と小分子との相互作用に関する研究は全く未開拓である。フラーレンのσ骨格を切断して開口部を設け、そこから任意の小分子や金属を内部に導入する手法が開発されれば、内包フラーレンならびに炭素クラスターの物性科学にブレークスルーをもたらすことができる。 本研究では、16員環の開口部をもつテトラケトン誘導体に対して還元剤存在下、単体硫黄との反応をおこない、開口部が硫黄で拡大された開口フラーレン誘導体を合成した。すなわち、テトラケトン体に対して,アミン存在下で単体硫黄を反応させたところ,開口部に硫黄が一つ挿入された17員環開口体だけでなく,硫黄が二つ挿入された18員環開口体,およびそのカルボニル基の一つが脱離した17員環開口体が生成することを見出した。さらに,得られた17員環開口フラーレン誘導体の粉末を高圧の窒素ガスに接触させたあと,開口部を縮小することで、窒素分子を内包したフラーレン誘導体の合成を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では、新しい開口フラーレン誘導体を合成することが最も重要である。フラーレンC60へのピリダジン誘導体の付加反応によりフラーレン骨格上に小さな開口部を形成し、その開口部の炭素=炭素二重結合を順次切断することにより巨大な開口部を構築するという計画に沿って研究を行った。その結果、硫黄により開口部を拡大する反応を見つけることが出来た。さらに、そこから穏和な条件下で、窒素分子を内包させることに成功している。本研究結果は、NH3, HF, CO, O2, H2CO等の電気双極子をもつ小分子やHg, Fe等の金属原子を内部に挿入することを検討する上で極めて重要な知見である。
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