研究課題/領域番号 |
24655028
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
時任 宣博 京都大学, 化学研究所, 教授 (90197864)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 有機元素化学 / 有機金属化学 / シリレン / 分子活性化 / 遷移金属触媒 |
研究概要 |
ケイ素二価化学種であるシリレンは炭素類縁体であるカルベン同様に金属への配位能を有しており、シリレン金属錯体を触媒活性種としたヒドロシリル化反応や不飽和化合物の結合活性化が報告されたことから、シリレンの配位子としての性質には関心が持たれている。また、一価ケイ素化学種であるシリリンの金属錯体はケイ素-金属間に三重結合性を有すると考えられ、カルビン錯体との関連性から注目されている。また、ケイ素-金属三重結合は様々な有機・無機化合物に対して高い反応性を示すことから、シリリン金属錯体は不活性結合の活性化の観点からも興味深い化学種である。しかし、これまでに報告されているシリリン金属錯体は一例のみであり、シリリン金属錯体の性質には未解明の点が多い。 本研究では、ケイ素間二重結合化学種である1,2-ジブロモジシレン(R(Br)Si=Si(Br)R、R:かさ高い置換基)をブロモシリレン(R(Br)Si)等価体とすることで、ケイ素上に反応性官能基としてブロモ基を有する新規ブロモシリレン白金錯体の合成を行った。ジシレンをシリレン等価体とするシリレン金属錯体の合成はこれが最初の例であり、新たなシリレン錯体の合成方法を確立したものと考えている。合成したブロモシリレン白金錯体の構造を詳細に検討したところ、ブロモシリレン配位子が既報のシリレンと比較して強いπ酸性配位子として振る舞うことを見出し、これがケイ素上のブロモ基の電子的効果に起因したものであることを明らかにした。次にブロモシリレン配位子から臭化物イオンを引きぬくことでカチオン性シリリン白金錯体の合成を検討したところ、シリリン錯体と考えられる新規錯体の生成を確認した。生成した錯体の単離同定には至っていないが、ケイ素や白金上の配位子、および対アニオンを変更することで、シリリン白金錯体の合成をさらに検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はまず、予備的な検討において発生を確認していたブロモシリレン白金錯体の合成、構造、および性質について検討を行い、ブロモシリレン配位子が既報のシリレンやカルベン配位子に比べ強いπ酸性配位子であることを見出し、論文として発表した。 次に、ブロモシリレン白金錯体に対し種々の臭化物イオン引き抜き試剤を作用させることで、カチオン性シリリン錯体の合成を検討した。臭化物イオン引き抜き試剤として銀塩を作用させた場合に新規錯体の発生を確認したものの、反応系は複雑となり単離同定には至っておらず、目的としたカチオン性シリリン錯体の発生は確認できていない。また、カチオン性シリリン錯体の合成検討の遅れから、予定していた引き続く不飽和炭化水素やジシランなどの基質活性化反応の検討も進行が遅れている。研究目的の達成のためには、カチオン性シリリン錯体の分子設計の再検討が必要と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の目的化合物であるカチオン性シリリン錯体の合成・単離に至っていないため、平成25年度はシリリン錯体をより安定化するための分子設計を再検討する。具体的には、ケイ素上にN-ヘテロサイクリックカルベンなどの電子供与能の高いルイス塩基を配位させることで、ブロモシリレン配位子からの臭化物イオン引き抜きの促進と、発生するカチオン性シリリン錯体の安定化を図る。白金上の配位子としては、現在用いているトリ(シクロヘキシル)ホスフィンより電子供与性の高いトリ(t-ブチル)ホスフィンや、かさ高いN-ヘテロサイクリックカルベンを導入することでカチオン性シリリン錯体を電子的に安定化する。また、対アニオンとして、求核性が低く様々な高反応性カチオン種の単離に活用されている、かさ高いアルミン酸イオンやカルボランアニオンといったものを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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