研究概要 |
カルビンのケイ素類縁体である一価一配位のケイ素化学種シリリンについては、金属に配位した際にケイ素-金属間三重結合の形成が考えられることから、シリリン金属錯体の構造や反応性に関心が持たれる。しかしながら、シリリン金属錯体の合成例は極めて少なく、シリリン金属錯体の性質には未解明の点が多い。 一方筆者らは、かさ高い置換基を持つ1,2-ジブロモジシレンR(Br)Si=Si(Br)R (R: かさ高い置換基)がブロモシリレンR(Br)Si等価体としての性質を有しており、シリレン捕捉剤との反応によってブロモシリレン捕捉体を与えることを報告している。そこで本研究では、1,2-ジブロモジシレンをブロモシリレン源として用いることでブロモシリレン白金錯体[R(Br)Si=PtLn}を合成し、引き続いてケイ素上のブロモ基を引き抜くことでこれまでに例の無いカチオン性シリリン錯体[RSiPtLn]+が得られるものと考えた。このようなカチオン性シリリン錯体は、ハードなルイス酸性を持つカチオン性ケイ素部位と、ソフトなルイス酸性を持つ白金部位が連結されており、両者の相乗効果に起因した小分子や不活性結合の活性化による分子変換反応への展開が期待される。 最終年度の研究では、平成24年度の研究で合成したブロモシリレン白金錯体に対し、銀塩などの臭化物イオン引き抜き試剤を作用させカチオン性シリリン白金錯体の発生を試みた。しかしながら、原料錯体の分解が起こるのみで目的の反応の進行は認められなかった。そこで、あらかじめカチオン性としたシリリン等価体[RSiLn]+ (L: ルイス塩基)と白金錯体との反応で目的のカチオン性シリリン白金錯体が得られるものと考えた。現在までにN-ヘテロ環状カルベン(NHC)が配位したシリリウムイリデンカチオン[RSi(NHC)2]+の合成に成功しており、白金錯体との錯形成反応を検討中である。
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