研究課題
ヘリセンはらせん構造を有する興味深いキラル化合物である。その比旋光度や円二色性(CD)は特異的に強い値を示すことから興味が持たれている。これまでに多数のヘリセン分子が合成、報告されているが、置換基導入などによって構造上のひずみや電子的効果を加えても、らせん軸方向の1Bb遷移のCD強度(コットン効果)はほとんど変化しないことが明らかとなっている。戦略的な物性制御のためにはCDの支配因子、すなわち電子遷移モーメントと磁気遷移モーメントの強度および方向の制御が必須である。もともとヘリセン類のCDはかなり強いが、さらに強力なCDを示すようにするためには、ふたつの遷移モーメントのなす角を0度または180度とする(余弦値が最大理論値の1)とよい。具体的な研究ターゲットとしてはらせん軸に沿ってC2対称軸を有するフュージョンしたヘリセン(ダブルヘリセン)2種を設計し、合成に着手した。そのうち1種に関しては既に合成を終え、キラル分割後、実験的にCDスペクトルを得ることに成功し、CD強度が増大するはずというこれまでの仮説を実証することができた。成果は、基礎有機化学討論会などの学会発表を行うにとどまらず、オランダでのSymmetry国際学会、ドイツでの励起状態の国際学会などでの招待講演で紹介する機会を得たほか、業績リストに示すような国際誌で報告した。
1: 当初の計画以上に進展している
研究計画の本筋にはなんら変更はないが、初期の合成手順では標的化合物が効率よく得られないことが明らかとなったため、別の合成ルートを探索し何とか合成へとこぎつけることができた。また、実測スペクトルの測定と平行して、すでに理論計算での成果が着々と得られてきている。本年度までの成果を要約すると以下のようになる。(1)主にヘリセン類のキロプティカル特性に関する基礎的知見が十分にえられ、これらをまとめた成果がJ. Am. Chem. Soc.誌へ2報の報告をはじめ多数の成果報告として国際誌に報告できた。これらの成果報告はリストのとおり際立っている。(2)ドイツ、オランダ、日本開催の国際会議での招待講演で研究が認められた。(3)一般雑誌化学への読み物の執筆をおこなった。(4)ヒューズしたヘリセン(ダブルヘリセン)を合成しそのCDスペクトルを測定したところ、3倍を越える強度のコットン効果を示し、申請者の提案するCD強度の制御法が実証された。(5)関連する成果を学会報告したところ、きわめて高い注目を浴びることとなり、すでに3件以上のヘリセンの物性に関する共同研究が新たにスタートした。 これらの結果は、当初計画を質、量ともに凌駕するものであるため、(1)の判定であると判断した。
当初、X字型のヒューズしたヘリセン(ダブルヘリセン)の合成において、4か所の二重結合を直接光環化しようと試みたが、結果としては3か所の環化しかおこらず、目的化合物は合成できなかった。本結果は、光反応における片道異性化という点で興味が持たれるが、目的化合物の合成には不適であると考えられる。現在、対応するヨウ化物の熱反応による環化ルートで検討を進めており、ほぼ合成のめどがついた。物性評価や理論計算など、他の点では、研究はおおむね順調に進展しているため、プロジェクト全体の変更はなく、来年度も当初研究計画通り研究を進める予定である。本年度の主たる目的はダブルヘリセンの合成、キラル分割、物性評価の完成であるが、本研究プロジェクトの概念の実証のため、更なる発展としてトリプルヘリセンの設計、合成に着手したいと考えている。このような背景から、次年度の経費は主に合成に必要な試薬などの消耗品、成果発表にかかる旅費等にあてる。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 4件) 備考 (1件)
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