研究概要 |
π共役分子の可逆的な構造変換はその面内に非局在化したπ電子の性質を劇的に変化させ、物性の顕著な変化をもたらす。本研究ではπ共役平面分子であるヘキサデヒドロトリベンゾ[12]アヌレン(以下DBAと省略)の金属配位による湾曲化を利用した平面/曲面可変を目指す。本年は、分子モジュール法により複数のDBAを結合させた連結DBA分子の合成を検討した。分子モジュール法はカテコール部位を導入した単環 DBAと、ボロン酸を複数もつ芳香環スペーサーとの脱水縮合反応により、種々の多様な幾何構造をもつ連結DBA分子の簡便な合成が期待される。 まずカテコールとボロン酸の縮合により生成する連結DBAの分子軌道計算を行い、完全縮環型の連結DBAと比較を行った。その結果、LUMOの準位が完全共役型よりも高いことが明らかになった。これより、連結DBA分子の個々のDBA部位は、その親化合物の性質を維持していることがわかった。 次に、カテコール誘導体の合成を以下の2ルートについて検討した。すなわち、(1) o-ジヨードトランと1,2-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-4,5-ジエチニルベンゼンとのクロスカップリングによる環化とそれに続く脱シリル化、(2) 1,2-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-4,5-ビス(2-ヨードフェニルエチニル)ベンゼンへのアセチレン挿入による環化とそれに続く脱シリル化である。(1)の反応の結果、目的とするカテコール誘導体が得られたが、環化における収率はわずか2%にとどまった。そこで最近報告された(2)の反応によるDBAの環化を行ったところ、7%に改善された。現在DBAの環化における収率の改善および新たな合成法について鋭意検討を行っている。
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