研究課題
ヘキサデヒドロトリベンゾ[12]アヌレン(以下T12-DBAと省略)は、3つのアセチレンが環内に明確な幾何で固定された環状パイ共役分子であり、金属種(コバルトや銅)の配位によってその平面状の分子構造が大きく変形し、ボウル型へと湾曲することが知られている。本課題では、T12-DBAへの金属の配位によるπディスク・πボウルの可逆変換によって超分子構造体の動的な構造・機能の変調を目的として、まずT12-DBAの種々の誘導体を合成しそれらを用いた超分子構造体の構築について研究を行った。T12-DBAの周囲6か所をtert-ブトキシカルボニルアミノ基で修飾した誘導体を合成し、そのX線構造解析を行ったところ、アミド基間での分子内および分子間水素結合(N-H / O=C)をそれぞれ6カ所で形成した完全同軸型のπスタック二量体を形成していることが明らかとなった。興味深いことに、二量体における2分子のπ共役平面間の距離(3.25Å)は、これまでに報告されているT12-DBA誘導体の同軸型πスタック構造の中では最も短い。またこの二量体は、結晶中において隣り合った二量体とはπ共役平面の重なりが全く無い孤立した状態にある。したがって、この誘導体に金属種を配位させ、さらに二量体を形成させることによって、結晶状態で隣接する2つの金属核同士の電子的コミュニケーションを精密に評価できると期待している。一方、2つのカルボン酸メチルエステルを非中心対称に導入したT12-DBA誘導体は、分子に誘起される双極子と分子の低対称性のために極めて異方的に結晶化が進行し、数百ナノメートルの幅をもつアスペクト比の高い繊維状の構造体を与えた。X線回折測定の結果から、この構造体は非常に結晶性が高いことがわかった。今後、金属種の配位による繊維構造の動的な構造変化を明らかにする。
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