研究課題/領域番号 |
24655036
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
西長 亨 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (30281108)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 電界効果トランジスタ / 両極性半導体 / シクロオクタテトラエン / 反芳香族性 / 低バンドギャップ |
研究概要 |
先に我々は、平面COT構造を有する環状チオフェン四量体を合成し、平面COTの反芳香族性に由来する高いHOMOと低いLUMOが発現することを報告している。本研究では、この性質を活用し、種々の置換基を導入した誘導体について、そのFET特性を検討した。合成した誘導体のCVを測定したところ、3種の誘導体が両極性FET性能を示しうるHOMOおよびLUMOレベルを有することが分かった。さらにこれら誘導体の結晶構造を比較したところ、もっともπ系が近接したパッキング構造をもつTIPSエチニル体において、その単結晶のFET素子が高い移動度をもつ両極性半導体になることを確認した。 一方、チオフェンの縮環数を2個に減らした新規平面COT体の合成ルートを探索し、閉環メタセシス反応を鍵とするルートを確立することに成功した。X線構造解析の結果、2分子単位でへリングボーン型のパッキング構造をとっていることが明らかになり、有機トランジスタには不向きなパッキング構造であることが分かった。しかしながら、COT環内の角度はD4h対称のCOT (135°) とほぼ同じ角度(132.6°-137.8°)をとっており、歪みの少ない平面構造を有する事が確認された。理論計算を行ったところ、そのNICS 値(GIAO-HF/6-311+G(d,p)) は+21.1となり、この値は直接プロトンが付いたCOT誘導体において今までで最も高い値を示した。さらに固体の1HNMRの測定から、常磁性環電流が空間的にどのように広がるのかということに関して、GIAO計算がその広がりを過剰に見積もっていることを示唆する結果を得ることに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、平面COT構造を有する環状チオフェン四量体に種々の置換基を導入し、そのうち三つの誘導体について、HOMOおよびLUMOのレベルが両極性半導体になりうる範囲にあることを明らかにした。さらに結晶解析の結果、そのうちの一つ(TIPSエチニル誘導体)はπ系が近接した結晶構造をもつことがわかり、単結晶のFETにおいて両極性の半導体になることを示し、論文にもまとめて発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までのところ、環状チオフェン四量体のTIPSエチニル誘導体の単結晶を用いて、両極性FET素子の作成を達成しているが、今年度は溶液から作成する薄膜において両極性FETになる高分子の開発を目指す。昨年度に、その高分子の合成に必要となる非対称に置換基を導入した環状チオフェン四量体モノマーの合成経路の検討を進めており、予備的にその経路を見つけている。今年度は、そのモノマーのポリマー化を種々検討し、そのFET特性を検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
昨年度までに、小分子の単結晶を用いる両極性FET素子の作成を達成しており、その成果をまとめた論文がChem. Commun.誌に受理され、inside coverへの掲載も内定している。その掲載負担金として15万円程度を使用する予定である。また、ポリマー合成については、必要なモノマーの合成経路の探索までにとどまっている。このため、ポリマー合成の検討に必要な種々の高価な遷移金属触媒の購入はまだ行っていない。今年度は、これら触媒を購入してポリマー合成を検討する。また、これまでの成果について複数の国際会議での発表も予定している。
|