研究課題/領域番号 |
24655041
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
張 浩徹 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60335198)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 非平衡場 / 振動反応 / pH振動 / スピンクロスオーバー錯体 / プロトン勾配 / クロミズム / 自励反応 / グルコノラクトン |
研究概要 |
平成24年度は、1)BZ反応場における自励常磁性/反磁性系の構築、2)BZ反応場における自励極性/非極性系の構築、3)pH振動場におけるスピンクロスオーバー系の構築、及び、4)自励錯体のミクロゲル化の遂行を計画した。 その結果、課題1)についてはSCO活性を示す事が知られているCo-terpy系錯体について具体的に検討を進めた。マロン酸/臭素酸ナトリウム/硫酸系のBZ反応液に対し[Co(terpy)]2+錯体を添加したところ、黄色溶液が得られた。しかし、振動反応は確認されず、加えて硫酸による酸化が示唆された。一方[Fe(terpy)]2+錯体に対し同様の実験を試みたところ、濃い還元状態である紫色溶液が振動応答を示し、黄色へと変化する双安定性を確認した。課題2については出発物質となるハロゲン置換Cr(III)錯体を新規に合成するべくパーフルオロカテコラートを配位子とする[Cr(III)(F4Cat)3]3-の合成に成功した。この錯体は極めて高い酸化電位を示し、酸化により段階的に配位子がセミキノネートへと酸化されることを電解スペクトル等により確認した。課題3について、酸塩基応答型SCO錯体と、錯体のpKaと同域においてpH振動液を共存させ、自励振動型双安定性錯体を創成することを目的とした。まず既報によりビスベンズイミダゾール鉄二価錯体を合成し、元素分析、吸収スペクトルよりプロトン付加体を確認した。更にこの錯体が、563 nmにMLCT遷移を示し、高スピン型と低スピン型が混合状態にあることを確認した。興味深い事に、この錯体のに対しNaOHを二等量の塩基を加えた際に吸収スペクトルが大きく変化していることから、二つの配位子からそれぞれ一つのプロトンが脱離した脱プロトン体が生成していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
外場にする双安定性分子は分子スイッチやメモリ等への応用が期待され、これまでにスピンクロスオーバー(SCO )錯体や原子価互変異性(VT)錯体等の多くの双安定分子が見いだされてきた。しかし従来研究の多くは平衡系に おける双安定性に限定されている。一方本申請課題は、非平衡反応場に特有の振動性を利用し金属錯体の自励双 安定化を達成し、従来の熱や光等の外場を必要とする双安定性とは一線画す、自励双安定性結合集団の創成を目指す。これにより、物理的外場に加え化学的刺激にをも応答し、自らからリズムを刻み外界へ物理的及び化学的 出力を発信しうる、より生命体に近い集団現象と革新的物質系を創成することが期待される。 平成24年度には1)BZ反応場における自励常磁性/反磁性系の構築、2)BZ反応場における自励極性/非極性系の構築、3)pH振動場におけるスピンクロスオーバー系の構築、及び、4)自励錯体のミクロゲル化の遂行を計画した。前述のように、課題1については、常磁性―反磁性スイッチングを行うべく、高い酸化電位を有し、BZ振動系に対し応答する錯体の選出が鍵となるが、異種金属錯体を種々検討した結果適切な金属及び配位子系の選出に至った。また、課題2についても同様に、酸化電位を高める目的に、新規パーフルオロ置換Cr(III)錯体の合成に成功したばかりでなく、その配位子ベースの段階的レドックス応答を予定通り遂行できた。今後、この錯体の振動反応系への導入を検討する予定である。更に、課題3について特に予想以上の進捗がみられた。pH振動系は近年バッチ系における連続振動が報告されており、魅力的な系といえる。本研究ではイミダゾール系錯体が振動pH場に応答することを世界で初めて実証すべく、pHの変調による錯体種の物性変化について確認を進め、合目的に課題を遂行するための結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、BZ系と共に、pH振動系の具体化を進める。ベンズイミダゾールピリジン錯体等はN原子上へのH+の吸脱着に伴うSCOを示す。本研究では、pH振動系にこれらの錯体を導入することで、自励SCO錯体を創製する。既報のpH振動系は系に多様なpH振動域を有するため、錯体のpKaに適したpH振動系を探索する。スピン状態の変化は、吸収スペクトルやin-situ磁化率測定、NMRにより追跡する。またこれらSCO錯体の存在がpH振動に与える影響(振動数、振幅)を明らかにする。 続いて自励双安定性錯体を固形化すべく上述の自励錯体のミクロゲル化を遂行する。ゲル化により個々の振動系を制御できるばかりでなく、振動に伴うゲル表面物性の振動に基づいたゲル間の化学的交信を実現できる。振動系は水系であるためhydrogelを中心にゲル化を行う。ゲル化にはアガロースやアルギン酸を利用し、SDS等の界面活性剤を含むコーンオイル等中でミクロゲルを作成する。また振動反応に必要な化学種とゲルの安定性の相関を明らかにし最適化を行うと共に、ゲル化剤、ゲルサイズ、温度依存性等を追跡し、固形化による振動モードを明らかにする。最後に、ゲル系の熱(体積変化等)、光(励起状態における電位、酸性度、電気双極子変調等)及び電場、磁場(双極子応答)応答性を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、消耗品には合成用の試薬類とガラス器具などの実験器具類の購入のための費用を計上した。特に合成試薬のうち金属元素は高価なため、一般試薬も含めて試薬代に多く配分している。特に新物質の合成を礎に多くの誘導体、異種金属化を実現するために多くの試薬代を計上している。 旅費には、資料収集と研究打ち合わせのための国内旅費及び国際学会での成果発表のための費用を往復旅費と数日の滞在として計上した。また研究の具体的計画をより先鋭化するための打ち合わせ旅費を計上した。その他の費目では、成果を迅速にまとめ、積極的に論文発表するために、英文校正費用を毎年度に計上している。 以上の経費の算出は妥当であり、研究遂行に必要である。
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