研究課題/領域番号 |
24655042
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大塩 寛紀 筑波大学, 数理物質系, 教授 (60176865)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 多電子電解触媒 / 二酸化炭素 / エネルギー問題 / 金属多核錯体 / シクロデキストリン / ルテニウムイオン / 銅イオン |
研究概要 |
本研究は、二酸化炭素を高効率で還元する金属多核錯体の多電子電解触媒を開発することを目的とする。これまでに、コバルト、ニッケル、パラジウム低原子価単核錯体や鉄ポルフィリンが二酸化炭素の還元を触媒することが報告されているが、電流効率とターンオーバー数が低く、より高効率の電解触媒の開発が望まれている。これら単核電解触媒の問題点は、1電子反応しか触媒しないこと、二酸化炭素(あるいは一酸化炭素付加)錯体が不安定であることにある。本研究では複数の金属イオンが二電子(多電子)還元反応を触媒する金属多核錯体を合成することにより、高効率二酸化炭素還元電解触媒の合成を目的とする。最終的には、化石燃料から放出される二酸化炭素を液体燃料に変換することを目標に研究を進め、環境問題とエネルギー問題を同時に解決することを目指して研究を行った。 二酸化炭素還元触媒能をもつ単核の[Ru(tpy)(bpy)]錯体(bpy=2,2’-ビピリジン、tpy=ターピリジン)に着目し、新規Ru二核錯体を設計合成した。cis-1,4-ジアミノシクロヘキサンを原料として用い、シクロヘキサンをスペーサーとして2つのbpy配位子が炭素鎖で連結された2核化配位子(L)を合成し、tpyを補助配位子としてもちい、Ruソースと反応させることで、[Ru(L)(Tpy)2(Cl)2]を合成した。CO2飽和溶液中での電気化学測定から、CO2還元触媒を示唆する触媒電流が観測された。今後は、反応生成物の同定・定量を行い、より多核の金属多核錯体を合成し、低電位での二酸化炭素還元触媒の開発を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では複数の金属イオンが二電子または多電子還元反応を触媒する金属多核錯体を合成し、高効率二酸化炭素還元電解触媒の開発を目的とする。二酸化炭素から一酸化炭素の還元反応(CO2 + 2H+ + 2e- → CO + H2O (-0.53 V))を効率よく進めるには、二電子還元できる電解触媒が有効であると考えられる。一方、これまでの二酸化炭素還元触媒は、Ru(0)錯体→Ru(II)錯体などの数例を除き、低原子価単核錯体が殆どであった。そこで、本研究では多電子還元可能な2核錯体に着目し、二酸化炭素が配位可能な空間を有する2核錯体を合成し、二酸化炭素の電解還元能を調べた。 これまでに二酸化炭素還元触媒能をもつ単核の[Ru(tpy)(bpy)]錯体(bpy=2,2’-ビピリジン、tpy=ターピリジン)の報告を参考に、新規Ru2核錯体を設計合成し、二酸化炭素の還元触媒能を評価した。cis-1,4-ジアミノシクロヘキサンを原料として用い、シクロヘキサンをスペーサーとして2つのbpy配位子が炭素鎖で連結された2核化配位子(L)を合成し、tpyを補助配位子としてもちい、Ruソースと反応させることで、[Ru(L)(Tpy)2(Cl)2]を合成した。CO2飽和溶液中での電気化学測定から、CO2還元触媒を示唆する触媒電流が観測された。
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今後の研究の推進方策 |
現段階で得られているRu2核錯体は単核Ru錯体と類似した二酸化炭素還元触媒能を示すことがわかっているが、還元電位は単核のものとほとんど同じであった。本研究では、これまでの知見をもとに、炭素鎖の調節やスペーサーの変更などによって、活性サイトがより近接する分子設計を行い、多電子還元が可能な系を探索する。さらにトリアミンを原料としてもちい、3核錯体を合成し、より多電子反応を触媒することができる分子系を開発する。また、αおよびγ-シクロデキストリンにtren やテトラアザマクロサイクルをぶら下げた配位子についても検討し、多電子多核錯体触媒についても研究を行う。 また別の研究推進方策として、Cu錯体系も検討する。[Cu(tacn)]錯体(tacn=テトラアザシクロノナン)は亜硝酸還元酵素モデルとして研究されており、Cu(I)/Cu(II)の酸化還元電位が比較的高く(0.2 V (SCE))、二酸化炭素の還元には不適であることが知られている。本研究ではこの[Cu(tacn)]を配位子の連結によって近接配置させた銅2核錯体を合成し、二酸化炭素錯体の構築を試みる。この錯体では、2つのCuイオンから二酸化炭素―反結合性軌道への逆電子供与により二酸化炭素(O=C=O)結合が弱くなり、電解還元触媒として機能すると考えられる。特に銅錯体はルテニウム錯体に比べ錯体合成が容易である利点が有る。本配位子については、tacn 部分にメチル基を導入することにより金属イオンの還元電位がより正側にある(二酸化炭素の還元に優位な酸化還元電位をもつ)錯体を合成し、効率的な二酸化炭素還元を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究では、合成と物性測定を行うため、試薬・ガラス器具等の消耗品費に重点を置いて研究費を計上した。合成では、嫌気下での操作が必要になると考えられるので、シュレンク管や真空ラインなどの特殊ガラス器具を購入する。試薬としては、配位子合成に必要なシクロヘキサンジアミンやビピリジンなどを購入する。合成には脱水・脱酸素溶媒をもちいる必要があるため、乾燥剤や蒸留装置等も購入する。さらに、特殊な電気化学測定を行うため、電気化学測定用セルや電極等も計上した。化合物の同定・基礎物性評価は現有設備である単結晶X線構造解析装置や紫外・可視分光光度計などをもちいて行う。データ解析に必要な科学計算ソフトや端末も購入する。研究成果は、錯体化学会討論会または日本化学会春季年会において成果発表するため、旅費を計上した。
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