研究課題/領域番号 |
24655051
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 高史 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20222226)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | コバラミン / メチル基転移 / ミオグロビン / メチオニン合成酵素 |
研究概要 |
本研究は、生体内で金属―炭素結合を経由するメチル基転移反応を触媒するビタミンB12含有酵素(メチオニンシンターゼ)及びコファクターF430含有酵素(メチル補酵素Mレダクターゼ)のモデル系の構築と反応の追跡を実施し、まだ曖昧なメチル基転位反応の分子化学的作用機序を明らかにすることを目的としている。具体的には、コバルト錯体B12及びニッケル錯体F430に対する新しいモデル錯体分子を合成する。次に、得られた錯体をアポ化したミオグロビンのヘムポケットに挿入し、タンパク質マトリクスの中で錯体の物性・反応性を詳細に検討し、当該金属酵素反応に関連する新しい知見を得る。 本年度は、まずビタミンB12(コバラミン)を模倣したテトラピロール配位子を有するコバルト錯体の合成を実施した。具体的には、ミオグロビンのヘムポケットに挿入するために、ヘムと同様に2本のプロピオン酸側鎖を有するコバルトテトラデヒドロコリン錯体を分子設計し、合成を行った。次に得られた錯体を、アポ化した(天然の補欠分子ヘムを除去した)ミオグロビンのヘムポケットに挿入し、再構成タンパク質を調製した。得られた再構成タンパク質については、NMR, MS, UV-vis、及びEPRによる同定を行い、狙い通りコバルトコリン錯体がヘムポケットに結合した再構成ミオグロビンが得られたことを示した。さらに結晶構造解析を行い、構造を明らかにした。次にこのタンパク質を還元し、これまで安定に得られなかったコバルト一価種の検出に成功した。特に、結晶解析も行い、之まで予想されていたように、4配位のコバルト1価錯体が、ヘムタンパク質の中で安定に確認された。また、このコバルト1価種にヨウ化メチルを添加して、活性種であるコバルトメチル錯体に変換されることも合わせて示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では、コバルトコリン錯体の合成と得られた錯体のアポミオグロビンへの挿入で、ほぼ1年が経過すると考えていたが、実際には難解なコリン錯体の合成がスムーズに進み、さらにタンパク質との複合体も比較的安定に得られた。それだけでなく、予想外にタンパク質の上質の結晶が獲得でき、共同研究によって構造解析にも成功したことが特記すべき事項である。そのなかでも、これまで実際に報告例のないコバルト一価の錯体の構造解析ができたことは、コリノイド(ビタミンB12類縁体)の化学において、非常に大きな知見となった。また、本来は困難とされているコバルトーメチル錯体もコバルト一価種を経由して、調製することが出来、UV-visで同定を行った。以上、合成までを1年の計画としていたが、得られた再構成タンパク質を用いて、メチオニン合成酵素のモデル反応やその中間体の検出まで踏み込むことが出来、当初の計画以上に研究が進展した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、メチオニン合成酵素のモデル反応として、コバルト二価種から一価種への還元、一価種とアルキル化剤との反応によるコバルト3価種アルキル錯体の合成をステップごとに検証を行った。平成25年度は、酵素のモデルとして、触媒的にアルキル転移反応を進行させる系の構築をまず考えたい。そのためには、外部基質がヘムポケットまで進入可能なように(外部基質がヘムポケットに結合できるように)ヘムポケットの構造的改造を部位特異的変異を駆使して行う。また、コバルトアルキル錯体の反応性が高くなるように、今まで用いたテトラデヒドロコリンではなく、ビスデヒドロコリンに錯体の配位子を変更して、アルキル転移反応を試みたい。 また、当初の計画通り、ニッケルF430を含むメチル転移酵素にも焦点をあて、タンパク質マトリクス内でのニッケル錯体の反応にも検証し、生体内での反応の機序や、メタン発生のメカニズムを探る研究にも着手する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、上記に記したように合成がスムーズに進行したために、合成に対する消耗品およびタンパク質精製の生化学消耗品が少なくて済んだが、逆に、完全にアルキル錯体をNMR, MS, Raman等のスペクトルで同定するために、高額のラベル化試薬が必要となった。したがって、このラベル化試薬をそろえて、平成24年度に検出したそれぞれの中間体の完全な同定を図りたい。また、メチオニン合成酵素のモデル反応がスムーズに進行し始めたため、触媒活性や反応速度を計測するために、大量の錯体およびタンパク質が必要となり、そのタンパク質調製や精製を迅速に実施するために、多額の合成消耗品と生化学消耗品が必要となるため、その経費として使用したい。
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