研究課題/領域番号 |
24655051
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 高史 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20222226)
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キーワード | タンパク質 / メチオニン合成酵素 / コバルトコリノイド錯体 / ミオグロビン / メチル基転移反応 |
研究概要 |
本研究は、生体内で金属―炭素結合を経由するメチル基転移反応を触媒するビタミンB12含有酵素(メチオニンシンターゼ)及びコファクターF430含有酵素(メチル補酵素Mレダクターゼ)のモデル系の構築と反応の追跡を実施し、まだ曖昧なメチル基転位反応の分子化学的作用機序を明らかにすることを目的としている。具体的には、コバルト錯体B12及びニッケル錯体F430に対する新しいモデル錯体分子を合成する。次に、得られた錯体をアポ化したミオグロビンのヘムポケットに挿入し、タンパク質マトリクスの中で錯体の物性・反応性を詳細に検討し、当該金属酵素反応に関連する新しい知見を得る。 本年度は、前年度に得られたメチオニン合成酵素モデルの反応性について、評価を行った。このモデルは、コバルトコリノイド錯体を人工補欠分子として有するミオグロビンであり、すでにコバルト1価とコバルトメチル錯体の2つの中間体が生成することを明らかとした。さらに、今回、このコバルトメチル錯体のメチル基が、室温、約12時間で、ヘムポケット内に存在するヒスチジン64のイミダゾール環の窒素原子に転移することを、MALDI TOF MSのin source decay mode で確認した。さらにメチル化されたタンパク質をペプシンで分解し、そのフラグメントを質量分析と13C-NMRで同定することによって、直接的にヒスチジンがメチル化されたことを証明した。これは、メチオニン合成酵素におけるホモシステインからメチオニンへのメチル基転移のモデル反応であり、初めて天然に近い反応性を有するモデルを提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度の最も大きな成果は、今までに低分子のコバルト錯体では難しかったメチル基の転移反応を、タンパク質ポケット内でしっかりと観測できたことである。当初、ミオグロビンのヘムポケット内で、コバルトコリン錯体の、コバルト1価およびメチル錯体形成までは追跡できると期待していたが、さらにメチル基が転移することは、予想の範囲を超えていた。今回見られたメチル基転移反応はまさに、メチオニン合成酵素のモデル反応であり、今後、メチル基の反応性とメチル基の電子状態を詳細に評価する際に大いに役立つと考えられる。そのなかでも、これまで実際に報告例のないコバルト一価の錯体の構造解析ができたことは、コリノイド(ビタミンB12類縁体)の化学において、非常に大きな知見となった。以上、構造モデル(酵素反応の中間体検出)を主な計画としていたが、得られた再構成タンパク質を用いて、メチオニン合成酵素のモデル反応まで踏み込むことが出来、当初の計画以上に研究が進展した。
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今後の研究の推進方策 |
今回、ヘムポケット内でのメチル基転移が観測されたため、次の段階としては、外部基質へのメチル基転移反応の検討である。ミオグロビン内でのコバルトコリノイド錯体のメチル基はある程度の反応性を有していると判断されるため、メチル基受容体となるヒスチジン64をアラニンに変異させたミオグロビンを調製し、外部基質としてホモシステインなどを添加して、メチル基転移の有無を確認したい。また、メチル基転移の反応性を評価するために、種々のコリノイド錯体を用いたり、メチル基以外のアルキル基を使ったり、あるいはアルキル錯体のコバルト-炭素結合のラマンによる評価を実施し、メチオニン合成酵素の反応機序の解明を図りたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
メチル基転移を追跡する手法としてNMRが有力である。その際に、ラベル化したメチル基(炭素13)が必要である。あるいは、エチル基、トリフルオロメチル基なども興味深いがいずれにしてもラベル化剤の納期に時間がかかり、年度を越しての実験となる。したがって、次年度にラベル化剤の経費を残し、コバルトに結合したアルキル基の反応性をきちんと評価する研究としてまとめたい。 上記で示したようにラベル化されたヨウ化アルキルを含む合成試薬および成果報告の旅費に主に使用する予定である。
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