研究課題/領域番号 |
24655052
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大場 正昭 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00284480)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 金属錯体 / リポソーム / 配位高分子 / リン脂質 |
研究概要 |
本研究では、柔軟かつ異方的な空間を提供する脂質二重層膜、特にリポソームに多様な機能を示す金属錯体を合理的に組み込んだ「階層的金属錯体集積空間」の構築と構造の評価を推進する。脂質二重層膜で形成される直径1μm サイズのリポソームの外表面、疎水性の膜内部、親水性の内表面及び内水相に異なる反応活性な金属錯体を選択的に組み込む新手法を開発して、界面反応場として新しい高機能な化学反応場の創出につなげる。 リポソームを基盤として階層的金属錯体集積空間を制御形成するために、① 親脂質性配位子および金属錯体の合成、② 内水相への金属錯体の導入、③ 膜外表面への金属錯体の導入および ④ 階層的金属錯体集積体の構造解析を進めた。 ① では、配位子にコレステロール部位を導入した親脂質性金属錯体 [Ru(terpy)(Chol-bpy)]X2、[Ru(Chol-salen)Cl]およびリン脂質部位を導入した親脂質性 Zn(II)ポルフィリン錯体の合成に成功した。 ② では、逆ミセル法により、内水相におけるプルシアンブルー (PB) の合成に成功した。PB のリポソームへの内包は、TEM および高輝度放射光ナノビームを用いた元素分布解析より確認した。 ③ では、① で合成した親脂質性金属錯体を用いて、凍結融解法によりリポソームの内外表面へ組み込んだ。吸収スペクトルと HR-MAS スペクトルより、金属錯体とリポソームの複合化を確認した。また、 Znポルフィリン錯体においては、共焦点レーザー顕微鏡観察における発光からも、複合化を確認した。 ④ では、PB を内包したリポソームの外表面へのZn(II)ポルフィリン錯体の導入に取り組んだ。導入量は少なかったものの、TEM および共焦点レーザー顕微鏡観察より、PB 内包リポソームへのZnポルフィリン錯体の組み込みを確認できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の各項目は、ほぼ予定通りに進展している。特に合成面では、① 親脂質性配位子および金属錯体の合成、② 内水相への金属錯体の導入、において、部位特異的な親脂質性金属錯体の組み込み法とその条件の最適化が大きく進み、今後の合成展開の基盤を確立することができた。 ③ の膜外表面への金属錯体の導入に関しては、親脂質性金属錯体の選択的な膜外表面への組み込み法は、ほぼ確立できた。本年度は膜の外表面における配位高分子の逐次的な合成へと展開する。そのための足場となる配位子の合成にはすでに成功し、親脂質性金属錯体の合成にも昨年度のうちに着手できた。 ④ 階層的金属錯体集積体の構造解析では、異なる金属錯体をリポソームの異なる部位に組み込んだ階層的金属錯体集積体の合成に成功した。構造解析に関しては、高輝度放射光ナノビームの元素分布解析では予定した程の精度が出なかったため、TEM を中心とした評価法にシフトした。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の成果を基に、来年度も ① 親脂質性配位子および金属錯体の合成、② 内水相への金属錯体の導入、③ 膜外表面への金属錯体の導入および ④ 階層的金属錯体集積体の構造解析を引き続き推進する。 ① では、③ においてリポソームの外表面に金属錯体を逐次的に組み込むために、水溶性の親脂質性金属錯体を開発する。既に bpy にコレステロールを導入した親脂質性配位しを用いた金属錯体が水溶性であることを見出しており、その精製とリポソームとの複合化を進める。また、外表面に結合を伸展可能な錯体配位子を導入し、逐次的合成により外表面のみにおける配位高分子膜の合成も進める。 ② では、逆ミセル法による合成は金属錯体を確実に内水相へ導入できるものの、一度に合成できるサンプル量が少ないことが問題であった。来年度は、この問題を解決するための大量合成手法を検討する。また、別の手法として、リポソームにイオンチャンネルを組み込み、内水相で金属錯体や配位高分子を直接合成する手法を検討する。既に、イオンチャンネルの組み込みには成功しており、予備実験において本手法の有効性を支持する良好な結果が得られている。 ④ では、② と ③ で開発する手法を融合して、階層的金属錯体集積体の合成を進める。構造解析は、リポソームの変形を防ぐために、cryo-TEM を用いた評価を進める。また、HR-MAS による金属錯体と脂質の相互作用、およびゼータ電位測定から金属錯体組み込みによる表面の改質および分散安定性の評価を進める。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、階層的金属錯体集積体の合成とその構造評価が中心となる。研究経費は、化合物合成に必要な試薬類と消耗品、測定に必要な器具と使用料、および京都大学での NMR HR-MAS と cryo-TEM 測定のための旅費が多くを占める。以下に詳細を示す。 設備備品には、共焦点レーザー顕微鏡観察用の高倍率の対物レンズの購入を計画している。より倍率を上げることで、詳細な観察が可能になる。 消耗品には、合成用の脂質、有機配位子や金属塩などの試薬、リポソームサイズ調整用のフィルターやシリンジなどの器具、および TEM や HRMAS-NMR 測定用の器具の購入費用を計上した。リポソーム作成および親脂質性配位子合成用の試薬が高価なため、試薬代に多く配分する。 旅費として、国内学会(錯体化学討論会(沖縄)4泊5日×1回)での成果発表、および測定のための往復旅費と滞在費(SPring-8 3泊4日×1回、京都大学2泊3日×3回)を計上した。 その他の費目には、SPring-8 利用の際の定額消耗品費負担分と CryoTEM 使用料を計上した。加えて、成果を積極的に論文発表するための論文投稿費用を計上した。
|