金属錯体は配位幾何構造に応じて多彩な分光学的・磁気的性質を示すが、それら発信情報を溶液中で瞬時に変換できる置換活性な金属錯体は未だ限られている。本萌芽研究では、外部刺激に応答して構造変換のできる置換活性なキラル金属錯体の配位立体化学を基盤として、より高感度に汎用性の高い、吸収/円偏光/発光/磁性変化の検出が可能なマルチクロミック素子を開発することを目的とし、以下の研究成果を得た。 (1)外部刺激に応答するマルチクロミック素子の開発:キノリンアミドを末端に含むキラルな多座配位子を合成し、調製したキラルZn(II)錯体の酸-塩基反応やアニオン刺激に応答した分子運動を活用した吸収色変換や発光色変換を伴うマルチクロミック検出を確立した。Zn(II)錯体とEu(III)錯体との共存系では、pHに応じて、赤-黄-緑と発光色を可逆的に変化させることも可能となった。このように、pH応答型発光色変換が可能なマルチクロミック素子を開発することができた。 (2)配位幾何構造の変換を伴うマルチクロミックシステムの構築:遷移金属錯体の幾何構造変換を活用したマルチクロミックシステムを開発した。酸-塩基制御によるアミド配位部位の結合異性化を活用して、配位子場の可逆的ジオメトリースイッチングと磁性スイッチングを含むマルチクロミック錯体を構築した。 (3)外部基質のキラリティーを検出するマルチクロミックシステムの構築:希土類トリス(β-ジケトナート)錯体は配位性基質と混合すると新たに三元錯体を形成する。ここでは、アミノアルコールのキラリティー検出について検討し、紫外円二色性スペクトル検出に加え、振動円二色性スペクトルによるマルチ検出が可能であることを明らかにした。
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